| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-073  (Poster presentation)

自由生活性線虫Pelodera strongyloides における交尾栓の役割
The role of copulatory plug in the free-living nematode : Pelodera strongyloides

*玉木芳明(明治大学)
*Yoshiaki TAMAKI(Meiji Univ.)

交尾栓とは、交尾後雄が雌の交尾器につける栓のことで、昆虫類、哺乳類など多様な生物において存在する。過去の研究から交尾栓には雄間競争における様々な機能があることが知られている。線形動物門に属する動物(以下、線虫)においても交尾栓を形成する種が存在するが、機能についてはほとんど明らかにされていない。
自由生活性線虫の1種Pelodera strongyloidesは恒常的に交尾栓を産生する。本研究では、P. strongyloidesの交尾栓の役割を理解するために、他の動物種における先行研究を参考にしてその機能を検証した。まず、交尾栓形成の仕組みを調べるためにP. strongyloidesの交尾行動を詳細に観察した。その結果、雄が雌陰門から精子を注入した直後に、雌陰門に交尾栓を付ける様子が観察された。観察中、交尾栓が雄の精子の流出をせき止めていることを示唆する様子が観察できたことから、続いて、交尾栓を付けたままの交尾栓保有雌と、交尾栓を取り除いた交尾栓除去雌を作製し、次世代産卵数を調べた。その結果、交尾栓保有雌の産卵数は155.4±45.1個、一方交尾栓除去雌の産卵数は141.8±87.4個で、両処理区間で産卵数に有意な差は認められなかった(p > 0.05, t検定)。本実験により、P. strongyloidesの交尾栓には、産卵数を増加させる役割はないことが明らかになったため、次に交尾栓の有無が雄の誘引能力の違いに寄与する可能性を走化性検定により調べた。その結果、未交尾雌が強く雄を誘引する一方で、交尾栓保有雌と交尾栓除去雌はともに雄線虫を誘引しなかった (p > 0.05, Tukey法)。最後に、P. strongyloidesの交尾栓に他の雄からの交尾を防ぐ機能があるかを交尾成功率調査により検証した。その結果、交尾栓保有雌では17%、交尾栓除去雌では8%の交尾成功率で、両処理区間で交尾成功率に有意差は認められなかった(p > 0.05, カイ二乗検定)。これらの結果から、P. strongyloidesの交尾栓は、既知の交尾栓の役割とは異なる機能を持つことが示唆された。


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