| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-075  (Poster presentation)

オオセンチコガネのオス親は育児に参加するのか?
Male parental care in the dung beetle Phelotrupes auratus

*戸田萌子, 熊野了州(帯広畜産大学)
*Moeko TODA, Norikuni KUMANO(OUAVM)

育児とは,広義には「子の適応度を向上させる親の形質」と定義され,生息地拡大,延いては種分化のきっかけとなるため進化生物学において重要な問題である.昆虫を含む節足動物では様々な家族形態が報告されており,中でもコガネムシ類は雌雄どちらもが育児に関わる種を多く含んでいるため,育児行動の進化を知る上で都合が良い.コガネムシ類の一種,オオセンチコガネ Phelotrupes auratusはセンチコガネ科に属し,地下のトンネルに哺乳類の糞をまとめて育児球と呼ばれる子の餌を作る糞虫である.体色が美麗で地理的多型がみられることから多くの関心を集め,広く名の知られている種であるが,他のセンチコガネ科の仲間と同様に生活サイクルのほとんどを地中奥深くで過ごし,実験室での飼育・観察が難しいことから,育児について未解明な点が多い.オオセンチコガネの繁殖に関する知見は野外環境における観察が主であり,オスの育児に関する報告は断片的な観察例を除くとほとんどない.本研究では育児における雌雄の役割を明らかにするため,帯広市で採集したオオセンチコガネ成虫の雌雄ペアを透明薄型の容器で3週間室内飼育し,個体の位置を記録した.その結果,飼育期間終了時に16ペア(30%)で計39の卵または幼虫(以降次世代と表記)が観察され,次世代が観察されたペアのオスは雌雄で比べた場合,オスは巣口付近により頻繁に滞在し,その滞在は育児球の作成が開始された後に増加した.オオセンチコガネのオスはメスと比べた場合,巣口付近で巣の防衛を行うことが育児の特徴であると考えられた.また,オスが糞の内部でメスとともに糞の運搬を行う行動がビデオ観察によって確認された.さらに,オスが単独でトンネル先端部に滞在し,その後そのトンネルの延長部に次世代が確認される場合があった.そのためオオセンチコガネのオスは巣口での防衛のほかに,糞の内部での運搬やトンネルの掘削を介して,育児を行うことが考えられる.


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