| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-076 (Poster presentation)
近年,近縁種の排他的な分布の要因として,配偶過程において生じる異種間での負の性的相互作用,すなわち繁殖干渉が重要だと指摘され始めた.
西日本には,トノサマガエル属の2種,トノサマガエル(以下トノサマ)とナゴヤダルマガエル(ダルマ)が生息している.ダルマの分布域は,トノサマの分布域にほぼ含まれ,トノサマとダルマ間では包接が起きることがある.本研究では,トノサマとダルマ間の繁殖干渉について,両種を実験的に同居させた条件下で配偶行動を観察することにより,その実態を調べた.
トノサマとダルマの繁殖期(2020年4月~5月,2021年4月~5月)に,滋賀県立大学圃場のライシメータおよび室内にて19時から明け方まで実験を行った.室内では,事前に野外で録音したライシメータ周囲の環境音,トノサマのコール音,ダルマのコール音をランダムに流した.水面に小型蚊帳(1.1x0.8 m)を浮かべ,その中にトノサマ・ダルマの♂1個体ずつとトノサマかダルマの♀を1個体,合計3個体となるように投入した.赤外線カメラで録画し,配偶行動を観察して解析した.
解析の結果,トノサマ・ダルマの♂は近くで発生した振動に向かって追尾することがわかった.すなわち,♂は,♀がおこした振動だけでなく,他個体♂や風などによる振動に反応して追尾し,振動の発生源に接近した.トノサマ♂は,自種♀が存在する区では自種♀を多く追尾し,抱接した.しかし、他種♀が存在する区では他種♂を多く追尾し,包接は他種♂・他種♀に対し同程度だった.一方,ダルマ♂は,自種・他種いずれの♀が存在する区でも,他種♂を多く追尾した.抱接については,自種♀が存在する区では他種♂を,他種♀が存在する区では他種♂・他種♀を同程度抱接していた.追尾・抱接の頻度はダルマ♂が,トノサマ♂よりもやや多かった.以上の結果は,繁殖干渉は2種間で両方向に生じることを示唆した.