| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-079 (Poster presentation)
罰とは、ある個体により不正行為が行われた際、自身がコストを支払ってでも不正行為者を懲らしめる行動で、不正行為者の協力を促進する。このような協力行動の操作は、協力行動の進化を考えるうえで重要なメカニズムであるが、ヒト以外の動物で協力行動を促進するために罰を与えることは報告されていない。親以外の個体(ヘルパー)が子育てを手伝う協同繁殖種では、ヘルパーは親のなわばりへの滞在を許容してもらうために手伝っているというpay-to-stay仮説が多くの動物で支持されている。この仮説に従うと、親は手伝わないヘルパーに罰を与えると予測される。しかし、手伝わないヘルパーに親が攻撃するという報告例はあるものの、親の攻撃が、実際に協力行動を促進する罰として機能しているかは不明である。そこで我々は、タンガニイカ湖産協同繁殖魚サボリ(Neolamprologus savoryi)を対象に、ヘルパーの手伝いを制限する水槽実験を行った。実験の結果、サボリの親は手伝いを制限されたヘルパーへの攻撃を増加させ、一方で、攻撃を受けたヘルパーは受けた攻撃時間の長さに応じて、その後のなわばり防衛時間(手伝い行動)を増加させた。このことから、サボリの親の攻撃は罰として機能し、親は手伝わないヘルパーの手伝い行動を引き出すために罰を与えることが示された。これはヒト以外の動物で初めて罰の効果を示した研究である。また、手伝いを制限されたヘルパーであっても親から攻撃を受ける前に手伝い行動を増やすことができる場合、ヘルパーはなわばり防衛時間を増加させ、親から攻撃をほとんど受けなかった。つまり、ヘルパーは親からの罰を回避するために攻撃に先立って手伝いを行った可能性が高い。このように一見、協力的に見えるヘルパーの手伝い行動は親の罰によって操作されていることから、今後、協力関係における行動の操作にも目を向ける必要がある。