| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-083  (Poster presentation)

人間社会における、関係流動性の変動とこれに伴う心理的順応 【B】
Adjustment of psychological traits in relational mobility change in human society 【B】

*小楠なつき, 結城雅樹(北海道大学)
*Natsuki OGUSU, Masaki YUKI(Hokkaido Univ.)

ヒトの心理的形質のいくつかは、国や地域ごとに安定した差がみられる。この差は、対人関係形成・離脱の自由度と定義される関係流動性という社会環境変数に対する、適応の結果であると説明できることが、適応論アプローチを用いる心理学において注目されている(Thomson et al., 2018)。

関係流動性および心理的形質の地域差がどのようなきっかけで形作られ、維持されるのかを知るためには、変化の様子を調べることが肝要であるが、これまで関係流動性に着目した縦断面調査が行われたことはなかった。

2019年末に発生した新型コロナの世界的蔓延は、人々の物理的移動を制限し、2020年10月の時点の計測においては、日米において全体的に関係流動性を低下させていた(Yuki et al., 2021)。

本研究は、この短期間における関係流動性の変化が心理形質に変化を及ぼすのかどうかを調べることを目的として行われた。新型コロナ以前に、別の目的で実施されたオンラインアンケート調査を利用して、新型コロナ蔓延後である2021年2~12月において個人の追跡調査を行ない、新型コロナ前後で2時点のパネルデータを得た。再調査は、一般的信頼と呼ばれる、見知らぬ他人を信頼する度合い、または、促進焦点と呼ばれる利得を追い求める度合いを計測していた調査が対象とされた。これらの心理形質はいずれも、コロナ以前において、関係流動性と有意な相関があることがすでに示されていた。データは、個人の時点によらない傾向を統制できる、個人を階層としたベイズモデルによって分析された。

その結果、関係流動性は、追跡調査の実施時期が遅かったためか、コロナ前およびコロナ後の比較において、全体で低下しているとは言えなかった。
しかし、一般的信頼および促進焦点はそれぞれ、2つの時点において、その時点における関係流動性に影響を受けていることも分かった。すなわち、個人をとりまく社会環境の変化に応じて、ヒトの心理形質は可塑的に順応しうる可能性が示された。


日本生態学会