| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-087 (Poster presentation)
脚を屈伸させたり、胴体を振ったりすることによって体を上下や左右、あるいは前後に揺らす行動を揺れ行動(swaying behavior)と呼ぶ。揺れ行動はヘビ類、ナナフシの多くの種などで観察されている。揺れ行動には風が吹いた場合、自らの周囲にある葉や枝と同じように揺れることで動きを似せて、捕食者から見つかりにくくなるというカモフラージュの役割があると考えられている。揺れ行動を行う生物の例として上記以外にヒメイトアメンボ Hydrometra procera が挙げられる。ヒメイトアメンボは、全て又は一部の脚の跗節を水面や水面に浮いている植物に置き、脚を屈伸させることで、腹部を地面と水平に保ったまま上下に揺らす。しかし、ヒメイトアメンボは風が当たっていない時でも頻繁に揺れ行動を行うことから、この行動がカモフラージュとしての機能を持っていないことが考えられる。風が吹いていない場合、揺れるという動きは目立ってしまうというコストがあると考えられる。ヒメイトアメンボの揺れ行動について、適応的意義解明の糸口を見つけることを目的とし、福岡市にある九州大学伊都キャンパス内で採集したヒメイトアメンボを用いて、揺れ行動の観察を行った。観察は1個体につき1時間ずつ室内で行い、風、音、同種他個体の存在といった外的刺激を与えないようにした。ヒメイトアメンボの揺れ行動は、複数回連続して揺れると一旦揺れるのを止め、しばらくするとまた連続して揺れるというように時間をおいて繰り返し行われる行動であった。複数回連続で揺れた際の振動数 (1秒間で何回揺れたか) はオス (n = 21) で1.15 ± 0.29 Hz (mean ± SD)、メス (n = 25) で 1.16 ± 0.28 Hz (mean ± SD) であった。これから雌雄で揺れる速さに大きな違いはないことが示唆された。1時間観察中に揺れた数の合計はオス (n = 26) で43.12 ± 52.11回 (mean ± SD)、メス (n = 26) で 123.42 ± 113.21回 (mean ± SD) であり、メスの方がオスよりも多いことが明らかになった。