| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-088  (Poster presentation)

通年的に活発なアカウミガメ亜成体が持つ温度選好性に関する研究
A study on temperature preference of juvenile loggerhead turtles Caretta caretta that maintain year-round activity

*村上凌太(東京大学), 佐藤克文(東京大学), 福岡拓也(東京農工大学), 木下千尋(東京大学), 坂本健太郎(東京大学)
*Ryota B MURAKAMI(Tokyo Univ.), Katsufumi SATO(Tokyo Univ.), Takuya FUKUOKA(TUAT), Chihiro KINOSHITA(Tokyo Univ.), Kentaro Q SAKAMOTO(Tokyo Univ.)

北太平洋に生息するアカウミガメCaretta carettaは亜成体期に沿岸域から外洋までの広範囲を季節的に回遊していることが知られている。アカウミガメなどの外温動物の生理・行動は周囲の温度により大きく変化するため、この季節回遊を好適でない水温帯の回避などの成長戦略として利用している可能性がある。しかし、周囲の水温に対してアカウミガメがどのように応答するか調べた研究は少なく、アカウミガメの水温選択性に関する知見は乏しい。そこで、2009年から2018年にかけて三陸沿岸域で混獲された亜成体26個体の背甲部に数か月~1年間の追跡が可能な衛星発信機を装着し、回遊中に経験した表層水温の推移を調べた。回遊中の経験表層水温は20.5±2.8℃(平均±SD)であり、18.9~22.3℃の水温帯(選好水温帯)を頻繁に利用していた。そこで、アカウミガメの滞在している水温帯を選好水温帯・低水温帯・高水温帯の3つに分類し、それぞれの水温帯から別の水温帯へ遷移する確率を60日経過後まで1日おきに求めた。結果、低水温帯・高水温帯に滞在していた個体は30日経過後には、51±34%・55±32%と高い確率で選好水温帯へ遷移した。さらに、選好水温水温帯に滞在していた個体は30日経過後も55±23%と高い確率で選好水温帯に留まっていた。その後60日経過後まで選好水温帯に遷移する確率が高くなるよう収束しており、回遊中のアカウミガメがおよそ1か月程度で選好水温帯へ移動することが示された。また、季節変動が見られる表層水温の定点記録(千葉県沿岸、21.3±3.7℃)を用いて同様の解析を行ったところ、アカウミガメの経験水温とは異なり50日程度で選好水温帯から他の水温帯へ完全に遷移する様子が確認された。これらのことから、北太平洋のアカウミガメ亜成体が20℃前後の水温帯を選択的に利用しながら回遊していることが示唆された。


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