| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-089  (Poster presentation)

コバネアシベセスジハネカクシの営巣生態、雄間闘争及び翅型変異
Nesting ecology, male-male combat and wing morph variations in Anotylus amicus

*奥園元晴, 徳田誠(佐賀大学)
*Motoharu OKUZONO, Makoto TOKUDA(Saga Univ.)

 ハネカクシ科は全世界で6万種以上が知られ、コウチュウ目最大の分類群の1つであるが、その生態学的研究は十分ではなく、多様化をもたらした生態特性に関しては未解明な点も多い。本研究ではコバネアシベセスジハネカクシAnotylus amicusの累代飼育法を確立するとともに、その行動学的・形態学的特徴を観察し、いくつかの興味深い知見を得た。本種は成虫、幼虫ともに、餌粒や基質繊維を積み上げ、自身を覆うように営巣した。この際、巣外壁に生じた隙間を埋めるように、粘液状の排泄物を注入する行動が観察された。排泄物を巣材として用いる生態的意義は明らかでないが、巣内の密閉性を高めるだけでなく、同種他個体を誘引するなど種内のコミュニケーションに寄与している可能性がある。本種の際立った形態的特徴として、雌雄間および雄間での頭幅変異が挙げられる。幅の広い発達した頭部をもつ雄が存在する一方、雌個体と一部の雄は頭部が未発達であった。飼育下では、巣穴や配偶者を巡った雄間での闘争行動が観察され、雄の発達した頭部は、武器として機能する形質として発達したものと考えられる。加えて、累代個体を用いた形態観察から、成虫の後翅サイズに連続的な変異があることが判明した。多くの個体では後翅が未発達であったが、一部の個体は体長の0.7倍程度の比較的発達した後翅を有していた。そのため、一部の個体は飛翔することができ、高い分散能力を有する可能性がある。本種は簡便な飼育設備で累代飼育が可能であり、約1か月で生活環が完了する上、成虫寿命は数カ月と長いため、研究上扱いやすく、雄間闘争・翅型変異など興味深い生態的事象を観察する上で、有用な材料と言える。


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