| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-094  (Poster presentation)

キハダショウジョウバエにおける餌選好性とそのゆらぎの遺伝的変異
Intre-population genetic variation in food preference and its fluctuation in Drosophila lutescens

*浜道凱也(千葉大・理), 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Kaiya HAMAMICHI(Fac. Sci., Chiba Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

動物はしばしば互いに集合し、群れを作る。群れの振る舞いは、個体ごとの比較的単純な行動機序の総和として解釈されている。しかし、現実の生物の群れで、個体レベルでの意思決定や行動特性は均一ではなく、このような個体差が群れの意思決定や群れのパフォーマンスに複雑に影響を与えると考えられる。そこで本研究では、群れを作ることが知られているショウジョウバエ類の一種のキハダショウジョウバエ(Drosophila lutescens)を用いて、野外の単一集団内における採餌行動に関わる4つの形質(餌選好性と活動性、大胆さ、集合性)の遺伝的な個体差を定量した。まず、千葉県内の1地点で採集した雌をもとに約70の単雌系統を確立した。次に、2種類の餌(オレンジとグレープ)を配置した8の字型のアリーナに同じ系統の5個体の雌成虫を入れ、動画を撮影した。撮影した動画から抽出した座標データをもとに、各個体がそれぞれの餌の近くに滞在した時間から個体ごとの餌選好性を評価した。さらに、アリーナの中央部に滞在した時間を大胆さ(度胸強さ)の指標、単位時間あたりの移動距離を活動性の指標、他個体との間のユークリッド距離の平均値を各個体の集合性の指標として定量した。その結果、4つの行動形質のいずれにおいても平均値に系統間で有意な差異が認められた。すべての系統は一定環境で飼育されているため、系統間の平均値の差異は、集団内での遺伝的な表現型変異を反映していると考えられる。なお、興味深いことに、系統内での個体の表現型のばらつき方は、系統間で異なっていた。系統内では遺伝的変異は極めて少ないと考えられることから、ばらつき方の系統間での差異は、発生ゆらぎの程度を反映していると考えられた。一連の結果は、遺伝的な表現型変異と発生ゆらぎの両方が、野外における採餌行動に関する個体間変異を形作っていることを示唆している。


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