| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-096 (Poster presentation)
相利共生とは、同所的に生息する異なる種の生物がお互いに利益を得る種間相互作用である。この種間関係では、パートナー同士で餌を介したやり取りが発達することがある。しかし、給餌を行うことで給餌する側がどのような利益を得ているかは不明な場合がほとんどである。クマノミとイソギンチャクの共生関係は古くから相利共生として知られている。近年、私たちは、クマノミが宿主イソギンチャクに餌を与える行動を野外で発見した。これまでこの行動は野外や水槽で観察例があるものの、共生関係における重要性は低いとみなされており、その実態は不明であった。そこで、本研究ではクマノミAmphiprion clarkiiの宿主イソギンチャクに対する給餌行動の実態と種間関係に与える影響を明らかにすることを目的とし、野外調査を実施した。異なるサイズと種類(オキアミ、魚、二枚貝、海藻など)の餌をクマノミに提示すると、クマノミは自分の口に入る小さいサイズの動物性の餌と海藻は自身で消費したが、自身の口に入らないサイズの動物性の餌を提示した場合、ほぼ全ての場合で宿主イソギンチャクに給餌した。また、クマノミに小さく調整した餌(オキアミ)を繰り返し提示すると、最初はクマノミ自身で食べたが、提示回数が増えると、宿主への給餌頻度が急激に増加した。さらに、クマノミの宿主イソギンチャクへの給餌が、宿主の成長量を増大させることが実験的に明らかになった。宿主イソギンチャクの体サイズの増加は、クマノミの生息環境の質が向上し、繁殖成功の増加を導くと考えられる。以上より、クマノミは宿主イソギンチャクの食性とクマノミ自身の状態に合わせて、積極的かつ状況依存的に宿主に給餌を行うことが明らかとなった。このようなクマノミとイソギンチャクの関係には、給餌によって宿主の質を高めるという栽培共生の側面もあると考えられる。