| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-097 (Poster presentation)
近年、欧米での和風ガーデニングの流行に伴い、ササ・タケ類の東アジアからの輸入に乗じてスゴモリハダニ類という体長1㎜未満の植食性節足動物が欧米に侵入している。本ハダニ類は寄主植物であるササ・タケ・ススキ類の葉の裏に糸を何重にも張ることで作られるトンネル状の巣網の中で集団生活を営むという変わった生態をもち、葉を変色させることで植物園や庭園の景観劣化を引き起こしている。環境や生態系への影響を考慮しながらも本ハダニ類を防除する方法として、欧米でも販売されている生物農薬の利用が考えられる。そこで、生物農薬であるククメリスカブリダニ(以下、ククメリス)における本ハダニ類の捕食能力を調べた結果、その能力は本ハダニ類の土着天敵であるタケカブリダニ(以下、タケカブリ)には及ばなかった。そこで本研究では、本ハダニ類と共進化関係にあるタケカブリがいかにスマートに本ハダニ類を捕食しているのか、ククメリスには何が足りないのかを知るために、両種における本ハダニ類の1種であるケナガスゴモリハダニの巣網への侵入時の行動を観察し、行動フローを比較することにより、本ハダニ類の捕食に有利な行動的特徴を調査した。
その結果、タケカブリではほぼすべての個体が巣網に侵入出来たのに対し、ククメリスは巣網の周りをうろつくだけで侵入は出来なかった。また、タケカブリでは本ハダニ類の巣網の切断行動が観察された。この切断行動は、巣網の強度が低くかつ絶食度合が高い場合に侵入に効果的であること、一方で巣網の切断には時間的なコストがあることや侵入に時間がかかるほど頻度が増すことが明らかとなった。また、ククメリスにはそのような巣網切断に関わる行動は一切見られなかった。以上から、カブリダニ2種の本ハダニ類の巣網侵入時における行動の大きな差異は巣網の切断行動の有無であり、タケカブリは状況に応じてこの切断行動を駆使していると考えられた。