| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-098 (Poster presentation)
利他行動の進化を理解するために、これまで主にアリ・ハチ類やシロアリ類を用いて利他行動を示す個体の生理学的背景が明らかにされてきた。しかし、これらの社会性昆虫とは異なる分類群に属する昆虫における利他行動の生理学的背景は、ほとんど解明されてこなかったため、分類群間での比較が不可能であった。そこで、不妊の防衛個体 (兵隊) を1齢で産出するアブラムシのササコナフキツノアブラムシCeratovacuna japonicaにおける生体アミン類の合成に関係する遺伝子の発現量をカースト (兵隊と通常個体) 間で比較し、その利他行動 (防衛) の生理学的背景を明らかにしようと試みた。本研究では、アリ・ハチ類やシロアリ類の利他行動を調節することが分かっている生体アミン類のドーパミン、オクトパミン、セロトニンに着目し、それらの合成に関わる遺伝子 (TH、DDC1、DDC2、TDC、TβH、TPH) の発現量を兵隊と通常個体 (1齢と2,3齢) の間で比較を行った。その結果、ササコナフキツノアブラムシにおける利他個体 (兵隊) の利他行動 (防衛) はドーパミンやセロトニンによって制御されておらず、オクトパミンによってのみ制御されていることが強く示唆された。このことは、オクトパミンが昆虫類全般で資源や交配相手をめぐる闘争行動を制御していることと矛盾しないだけでなく、アリ・ハチ類やシロアリ類における防衛行動がオクトパミンによって制御を受けていることからも、ササコナフキツノアブラムシにおける利他行動 (防衛) が昆虫類全般と同様な生理学的背景によって調節されていることが考えられた。