| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-099 (Poster presentation)
左右で対になっている付属肢をもつ動物は、その片方だけを使う行動において、左右のどちらかを選択しなければならない。左右のどちらの付属肢を使用するのかは、予測できるだろうか。左右の付属肢で使用頻度の偏りや構造の違いがある場合、使用される付属肢を予測できるが、それらがない場合はどちらを使用するか予測できない。バッタ目のいくつかの科では、フンけり行動という自らのフンを後脚で蹴り飛ばす行動を行うことが知られており、蹴られた排泄物の平均飛距離が体サイズのおよそ10倍におよぶ例もある。フンけり行動を行うとき、フンがほとんど肛門から出ると肛門がその端を保持している状態になり、そこで片方の後脚が動いて脚の脛節から跗節がフンにあたり、排泄物は個体の斜め後方に飛ぶ。左後脚を使うときと右後脚を使うときの間で、蹴り以前に起こることの違いに着目することで、フンけり行動に使う後脚の左右を予測できる可能性がある。
発表者はショウリョウバッタAcrida cinereaのオス成虫の排泄行動をビデオカメラで記録し、フンけり行動に使う後脚の左右を詳しく観察した。フンが排出される様子を背面から見ると、排出され始めは肛門から離れずに個体の正中線上を進み、約半数が正中線から逸れて個体の左半身側または右半身側に偏り、その後片方の後脚で蹴られる。正中線から逸れずに進んだフンは右後脚でも左後脚でも同じような頻度で蹴られた一方で、どちらかに逸れたフンは逸れた方向の後脚で蹴られることがほとんどであった。すなわち、フンけり行動に使う後脚の左右はフンの逸れた方向から予測可能であった。
本研究は、左右で構造に違いのない対称な付属肢の使用を時間的に先立つ状態から予測できることを示した。フンけり行動において、フンの逸れた方向と蹴るために使った後脚の左右を一致させるメリット、およびどのように一致させているのかについて考察する。