| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-100 (Poster presentation)
動物の採餌行動はその食性と密接な関係をもち、ニッチの似た近縁種どうしであっても食性の違いによって異なった採餌行動を持つことがある。毒ヘビのグループとして知られるクサリヘビ科では、北米に生息するガラガラヘビ類が集中的に研究されており、哺乳類を高頻度で食べるこれらのヘビの捕食行動がしばしばクサリヘビ類の典型として扱われる。しかし、研究の乏しいアジア等のクサリヘビ類の中にはガラガラヘビと異なった食性を持つものも多く、その捕食行動はこれまで考えられてきた以上に多様である可能性がある。そこで本研究では、日本に生息するクサリヘビ類であるニホンマムシ(以下マムシ)とヒメハブのマウスに対する捕食行動を比較した。両種はともに広食性であるが、マムシはより高頻度で哺乳類を捕食する一方、ヒメハブはその生息地に哺乳類が少なく、カエル類への依存度が非常に高い。観察の結果、マムシはガラガラヘビで知られているのと同様に、マウスに咬みついて毒を注入した後すぐに一旦放し、毒が効くのを待ってから呑み込む行動をとった。一方ヒメハブは、ほとんどの個体がマウスに咬みついた後、顎で保持し続けた。さらに、胴を使ってマウスを絞め付けて動きを制圧する個体もいた。この絞め付け行動は毒ヘビでは進化しにくいと考えられており、クサリヘビ類においてはこれまで報告されていなかった。餌を吞み込む際には、マムシはより小さい動きで大きい餌を呑める顎の動かし方をしていたが、ヒメハブはより餌を落としにくいと考えられる顎の動かし方を示した。ヒメハブは、毒が効きにくく逃げられやすい餌であるカエル類を主食としていることから、今回見られたマムシやガラガラヘビとの行動の違いはその食性の違いを反映していると考えられる。本研究により、クサリヘビ類の捕食行動は種や系統ごとに食性に合わせて進化しており、典型的とされる行動はその一例に過ぎないという可能性が示された。