| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-102  (Poster presentation)

プルチャーにおける異人効果
Other race effect in Neolamprologus pulcher

*西田光希, 川坂健人, 十川俊平, 安房田智司, Masanori KOHDA(大阪市立大学)
*Koki NISIDA, Kento KAWASAKA, Shumpei SOGAWA, Satosi AWATA, Masanori KOHDA(Osaksa City Univ.)

異人種効果とは、自人種の顔と比べて他人種の顔が見分けにくくなる現象である。異人種効果は日常的に接する人種の顔と、そうでない人種の顔に対する熟達度の違いによるものと考えられており、顔認知能力の発達過程を知る上で重要な証拠とされる。ヒト以外の脊椎動物においても顔の違いに基づく個体識別は報告されており、同種と比べて他種の顔の識別が難しいという研究はあるが、同種の地域間で異人種効果を検証した例はない。そこで本研究は、タンガニイカ湖原産カワスズメ科魚類Neolamprologus pulcherに注目した。本種は協同繁殖魚としても知られているが、顔の模様が個体によって異なり、模様の違いに基づいて群れの仲間(既知個体)と放浪個体(未知個体)を識別することができる。加えて、本種はタンガニイカ湖全域に生息し、顔の模様の基本パターンには地域変異が存在する(湖北タイプ:通称T-stripe、湖南:Parallel-stripe)。本種の湖北タイプ個体に同地域(湖北)・別地域(湖南)の既知・未知個体の顔写真を提示し、地域の違いが攻撃や警戒といった行動に与える影響を調べた。同地域の個体どうしを用いた先行研究では、本種が既知個体よりも未知個体に対してより攻撃や警戒を行うことがわかっている。異人種効果がある場合、別地域の個体の識別は難しくなるので、両個体に対する攻撃や警戒は同程度になると予想される。実験の結果、湖北タイプ個体は同地域(湖北)の顔写真に対して、既知よりも未知でより攻撃や警戒を行う傾向がみられたが、別地域(湖南)では既知と未知の差は小さくなった。この結果は、同地域の場合と比べて別地域の個体の識別が困難であったことを示し、これは本種にも異人種効果が存在することを示唆するものである。


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