| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-104  (Poster presentation)

クチキゴキブリの翅の食い合い:翅食い途中で小休止
rest during mutual wing-eating

*大崎遥花, 粕谷英一(九州大学)
*Haruka OSAKI, Eiiti KASUYA(Kyushu Univ.)

共食いは同種個体を食う現象で、多くの生物で長年研究されてきた。中でも特に配偶相手を食うものを性的共食いと呼ぶ。既知の性的共食いは、どれも片方の性が相手を一方的に食う例であり、雌雄が互いに食い合う例はなかった。その唯一の例外が、リュウキュウクチキゴキブリのオスとメスが配偶時に互いの翅を根近くまで食い合う現象である。翅の食い合い後、翅はほとんど残らない。
 翅の食い合いを観察した発表者らは、翅を食い始めてから翅がなくなるまで一気に食い終えるのではなく、翅がまだ残っている段階で一旦食うのをやめて相手から離れて小休止することを発見した。休止中に相手から翅を食われる場合もあった。その後、個体は翅食いを再開し、何度か同じような小休止を繰り返しながら最後的に翅を食い終えた。一般に性的共食いでは、一旦相手から離れれば食うことは再開されないため、この点で翅の食い合いは非常に異質と言える。食うという行動には対象の解体、咀嚼、嚥下という処理が必要で、処理時間がかかる。処理中は警戒が薄れ、捕食者に狙われるなどのコストを伴う。よって、処理時間を短くすることは捕食リスク回避の1つの方法と考えられている。さらに共食いの場合、相手が自身と同等の能力を持つ状況も想定されるため、短時間で素早く処理して相手の抵抗の機会を減らすことはより重要と考えられる。翅の食い合いでの小休止は処理時間を延ばすことに繋がり、一見適応的ではない。本研究では、どのくらい相手から離れて食うことを休止するか定量的に解析し、共食いでは異質な処理途中での休止を通して、既知の共食いとは異なる行動である翅の食い合いの意義を解明する手がかりとすることを目的とした。翅を食い終える前に休止するということは、翅を急いで処理する必要がないと解釈できる。翅の食い合いは翅を食われる個体が抵抗、逃避する確率が低い状況で行われている可能性が浮上してきた。


日本生態学会