| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-105 (Poster presentation)
アリなどの真社会性昆虫は、ワーカー間の分業体制によってコロニーが維持されている。この分業では、若齢ワーカーが内役(巣内での子育て)を担い、老齢では外役(巣外での採餌等)へと切り替える。一方で、ワーカーが従事するタスクは状況に応じて柔軟に変更(タスク移行)可能であり、不安定な環境下においても分業は頑健に維持されている。タスク移行は、タスクの経験がそのタスクへの従事しやすさを決める内的な閾値を変化させる事で生じると考えられている。先行研究においてトゲオオハリアリでは、外役では経験によってタスク移行が起こる一方で、内役では経験に依存せず内役タスクに固執することが示された。これは経験に対する閾値の変動が内役と外役で異なる事を示唆する。本種はワーカーも機能的な卵巣を保持しており、内役を担う若齢ワーカーは、老齢である外役と比べて卵巣が発達する。このため、内役と外役で期待される適応度の違いが、タスク経験への応答の違いを生じさせたと考えた。本研究ではトゲオオハリアリに加えて、女王が不在かつ内役が産卵能力を持つアミメアリ、ワーカーが完全不妊であるオオシワアリを用いて、経験とタスク移行の関係性の種間比較を行うことを最終的な目的とする。まず初めに、アミメアリとオオシワアリでタスク移行が生じるかを調べるため、外役のみまたは内役のみから構成されたサブコロニーを作成して観察を行った。その結果、両種ともにワーカーのタスク移行が観察された。次に、タスク移行による分業の再構築前後でタスク比率を比較した結果、トゲオオハリアリでは外役のみのコロニーで通常のコロニーと近い比率を示したのに対して、アミメアリでは内役のみのコロニーで比率が近くなった。一方、オオシワアリでは両サブコロニーにおいて通常のタスク比率と異なった。上記に加えてアミメアリの卵巣発達の調査結果を示し、この種間差の要因について議論する。