| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-108  (Poster presentation)

チョウセンカマキリの精子競争における雄交尾器形態への性淘汰の検出
Evaluation of sexual selection via sperm competition on male genitalia in Tenodera angustipennis

*森優美子, 高見泰興(神戸大学)
*Yumiko MORI, Yasuoki TAKAMI(Kobe Univ)

 雌が多回交尾を行う種では精子競争が生じるため、雄は交尾時間の延長や射精量の増加により、雌への移送精子量を増加させることで繁殖適応度を高めうると考えられる。しかし、性的共食いを行う生物では、交尾時間の延長は雌との接触時間を延長することになるため、性的共食いのリスクを高める可能性がある。これまで、精子競争と性的共食いが雄の配偶形質の進化に及ぼす影響は別々に研究されてきた。そのため、これらの進化要因が同時に作用した場合に、どの様な進化が生じるのかについてはほとんど研究されていない。本研究は、雌の多回交尾が確認されている性的共食い種であるチョウセンカマキリを用いて、雄交尾器(右上陰茎板、左上陰茎板、下陰茎板)の形態にどの様な淘汰が働くのかを明らかにすることを目的とした。
 未交尾の雌雄を用いた交尾実験を行い、雌への移送精子量、交尾時間、精包付着時間の3つの適応度成分を測定した。雄交尾器の形態変異を、幾何学的形態測定法により定量化した。選択勾配分析の結果、右上陰茎板の形状において、移送精子量と精包付着時間に関する方向性淘汰が検出された。しかし、この部位の形態変異には交尾時間に関する方向性淘汰は検出されなかった。また、左上陰茎板のサイズ変異と下陰茎板の形状において、交尾時間に関する方向性淘汰が検出された。しかし、これらの部位の形態変異には、移送精子量に関する方向性淘汰は検出されなかった。したがって、移送精子量の増加と交尾時間の短縮を同時にもたらす様な形態変異は存在しないことが示唆された。しかし、適応度成分間の適応度成分間の関連を検証した結果、交尾時間と精包付着時間は移送精子量と関連していなかった。したがって、移送精子量の増加による精子競争への適応と、交尾時間の短縮による性的共食いのリスク回避の間にトレードオフは生じておらず、これらはが同時に成立する可能性は制限されていないことが示唆された。


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