| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-109 (Poster presentation)
性的共食いとは、交尾の際に雌が同種の雄を捕食する行動であり、カマキリやクモなど節足動物でよくみられる。性的共食いには、摂食量を増やし、繁殖のための栄養資源を得るという適応的意義があると考えられている(性的共食いの量的利益仮説)。また、同種の個体は物質組成が等しく質のよい餌であり、性的共食いには、質のよい餌を得ることによる繁殖力の向上という適応的意義がある可能性もある(性的共食いの質的利益仮説)。しかし、性的共食いの栄養的利益の証拠は未だ十分ではない。そこで本研究は、チョウセンカマキリ(Tenodera angustipennis)を材料に用いて、性的共食いの栄養的利益を量と質の両面から検証することを目的とした。
まず、雄カマキリ、餌昆虫、並びに雌カマキリ体内の栄養組成を比較することで、雌にとっての同種の雄の栄養的価値を調べた。卵は脂質を豊富に含み、多くの脂質が卵形成に必要であると考えられることから、雄が雌にとって良い餌であるならば、他の餌と比べて脂質がより豊富に含まれていると予測される。しかし、雄カマキリと餌昆虫との間で脂質含有率に有意差はみられなかった。加えて、雄カマキリは、雌カマキリよりも脂肪含有率が有意に低かった。
次に、摂食量と餌の種類(雄カマキリか他の餌昆虫)を調整した給餌実験により、餌の量と質が雌の繁殖成功(雌の肥満度、卵しょうの質量、孵化率)に及ぼす影響を検証した。摂食量と雌の繁殖成功の指標との間には正の関連がみられ、性的共食いの量的利益が検出された。しかし、餌の種類は雌の繁殖成功の指標に影響せず、性的共食いの質的利益は検出されなかった。特に、性成熟までに雄を共食いした雌の産んだ卵は、他の餌を摂食した雌の卵よりも孵化率が低かった。以上により、性的共食いは摂食量を確保するという利益のもとに進化し、維持されていることが示唆された。