| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-110 (Poster presentation)
主にオスのみが鳴き声を発する形式の音響コミュニケーションを行う生物の中には、ある1つの鳴き声を構成する音の種類によって、機能の違いが見られる種が知られている。ツクツクボウシ Meimuna opalifera のオスの主鳴音はその主要部の音響的特徴が途中で変化し、前半と後半の2つのパートに分けられる。主鳴音の主要部が複数のパートを持つセミは他に知られておらず、この点でツクツクボウシの主鳴音は複雑である。ツクツクボウシの主鳴音が複雑である理由として、パートごとに異なる機能を持つことが考えられるが、これを調べた研究はない。ツクツクボウシの主鳴音の主要部がパートごとに異なる機能を持つならば、その主鳴音をパートごとに分けて他個体に聴かせた場合、他個体の応答が変化する可能性がある。本研究では、ツクツクボウシの主鳴音の音声に加え、主鳴音の主要部を前半と後半に分解した音声をスピーカーで再生し、同種のオス個体に聴かせるプレイバック実験を行った。
福岡市の九州大学伊都キャンパスにてツクツクボウシのオスを捕獲し、主鳴音を録音した。この音声を編集し、前半のみ、後半のみを抽出した音声を作成した。またコントロールとして無音、ホワイトノイズの音声を用意した。室内において、これらの音声を約30分間再生し、ツクツクボウシのオスに聴かせ、その反応を観察した。音声に対する応答として、ツクツクボウシのオスが同種の主鳴音に対し「ジューッ」と発声する合の手という音の回数を記録し、各音声処理間の応答回数を比較した。
結果、ツクツクボウシは主鳴音由来の音声に対してのみ合の手を発した。また主鳴音由来の音声に対する応答の回数は、主鳴音全体と前半のみの音声の方が、後半のみの音声よりも多かった。主鳴音のオスに対するシグナルとしての機能は主鳴音の主に主要部前半パートに存在し、また合の手は主に前半パートに対する応答であることが示唆された。