| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-113 (Poster presentation)
同種の個体群間において、行動や生態的特性に地域差異がみられることがある。特に鳥類や哺乳類におけるこのような地域ごとに異なる特性は、環境に対する柔軟な学習の結果、個体間で共有され、世代を通して伝えられる文化的性質を示すことがある。
近年、国内の一部地域の水田において外来種スクミリンゴガイを畦上まで運び、捕食するハシボソガラスの存在が明らかになった。両種が共存して数十年経過するにもかかわらず、カラスによる捕食は局所的にしかみられないため、この捕食行動には学習が関与する可能性がある。今回は、カラスの捕食が確認されている愛媛県松山市、兵庫県加西市、奈良県大和郡山市において、捕食行動における地域差異の有無を調べた。カラスの捕食行動を、水田内で貝を探す時間、畦上に運ぶ時間、貝を処理する時間に分けた。また、処理中に辺りを見上げた回数から警戒の程度を評価し、さらに畔上の貝殻の割れ方や食われ方を調べ、水田内の生貝とサイズを比較することで捕食方法や選好性を評価した。その結果、探索・運搬時間には顕著な地域差異はみられなかったものの、兵庫のカラスは処理時間が短く、見上げた回数が多かったことから、警戒心が強いと考えられた。加えて、兵庫のカラスは他の2地点に比べて、貝を割らず身を残す割合が高かった。さらに、選好する貝サイズにおいては、愛媛や奈良では水田内の比較的小さい貝を捕食しているのに対し、兵庫のカラスは、水田内の大きい貝を捕食していた。したがって、愛媛や奈良に比べて兵庫のカラスは警戒心が強いため、貝の処理時間を短縮しつつ、水田内の大きい貝を選好することによって、簡単に摂食できる部分の量を増やしている可能性が考えられた。本研究から、カラスは地域の環境に応じて適応的に餌のサイズや捕食行動を変えていることが示唆された。