| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-114  (Poster presentation)

餌場における捕食者及び非捕食者の匂いに対するエゾリスの応答行動
Behavioral response of Eurasian red squirrels to the odor of predator and non-predator at the feeding site

*上本咲来(東洋大学), 高畑優(総合研究大学院大学), 浅利裕伸(帯広畜産大学), 内田健太(カリフォルニア大学), 伊藤元裕(東洋大学)
*Sarai AGEMOTO(Toyo Univ.), Yu TAKAHATA(SOKENDAI), Yushin ASARI(Obihiro Univ. Agr. Vet. Med.), Kenta UCHIDA(UCLA), Motohiro ITO(Toyo Univ.)

 被食者は、嗅覚情報である匂いを頼りに、広範で捕食者の存在を察知することができる。実際にキタリスは嗅覚情報をもとに索敵・回避行動を行うことが示唆されているが、在来の捕食者以外の匂いに対してどのような行動調節をしているのか詳細は分かっていない。本研究では、キタリスの他の動物種の匂いに対する識別能力の有無と、匂いの違いに対する行動の違いを明らかにした。具体的には、捕食者のアカギツネと非捕食者のタイリクモモンガの匂いが、本種の餌場での滞在時間や採食行動、警戒行動に与える影響を検討した。
 2021年秋に帯広畜産大学に隣接した林の4箇所に餌台を設置し、赤外線センサー付き自動撮影カメラを用いてキタリスの行動を撮影した。コントロールとしてキタリスの行動を記録した後、餌台にタイリクモモンガ或いはアカギツネの糞と水の混合液を用いて匂い付けをし、2日間撮影した。その後、実験休止期間を設けてから、1回目と異なる動物種の匂い付けをし、2日間撮影した。得た映像データから本種の滞在時間とその間の採食時間、警戒行動の回数を算出し、GLMMで統計解析をした。
 アカギツネの匂い付け時は、滞在時間と滞在時間における採食時間はコントロールより短く、警戒回数はコントロールより多かった。一方で、タイリクモモンガの匂い付け時はコントロールより滞在時間が長かった。この結果から、キタリスはアカギツネの匂いを特異的に感知して捕食リスクの軽減や捕食者の早期発見を行っていること、タイリクモモンガの存在が餌場の安全性の指標となっていることが考えられた。また、周囲にアカギツネの巣がある実験区では、滞在時間とその間の採食時間の減少や警戒行動の増加が顕著であった。周囲にアカギツネの巣がある場所においては、捕食者との日頃の遭遇確率が実験区と比較して高くなるため、この遭遇による学習が行動の強化に影響しているのかもしれない。


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