| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-119  (Poster presentation)

ミナミメダカにおける「有限な精子」をめぐる雌雄の戦略 【B】
Strategies of male and female medaka for limited sperm 【B】

*近藤湧生, 幸田正典, 安房田智司(大阪市立大学)
*Yuki KONDO, masanori KOHDA, satoshi AWATA(Osaka City University)

 膨大な数の精子生産はコストや時間がかかるため、精子は雄にとって有限な資源である。実際、雄の連続した配偶による卵の受精率の低下(精子枯渇)が、多くの分類群で報告されている。しかし、1回あたりの放精量は一部の動物でしか計数されておらず、連続した配偶における放精量、受精率、および雌雄の行動の変化やそれらの関係についてはほとんど分っていない。また、雌も複数回の放精を行った(精子枯渇した)雄との配偶は避けるべきであるが、精子枯渇に対する雌の対抗戦略は十分検討されていない。
 ミナミメダカは4-9月と比較的長い繁殖期間を持つ一年魚である。繁殖期間中、雄は1日に複数回、雌は1日に1回の配偶が可能であるため、連続した配偶に伴って雄は精子枯渇する可能性がある。そこで本研究では、餌や雌をめぐる闘争や探索をする必要のない実験条件下で、ミナミメダカの雄が配偶しなくなるまで雌と連続的に配偶させる実験を行うことで、雄の連続した配偶における放精数、受精率、および雌雄の行動の変化とそれらの関係について調べた。
 その結果、雄は1日に平均19個体、最大で27個体の雌と配偶した。雄は前半の配偶にたくさんの精子を投資し、3回目の配偶までにその日の放精数の52%を消費した。また、最初は100%であった受精率が、5回目以降の配偶で低下し、0%も頻繁に観察された。しかし、雌の対抗戦略の1つと考えられる卵の産み残しは確認できなかった。これらの結果は、連続した配偶を経験した雄が精子枯渇を起こしたことを示唆している。そして、連続した配偶によって放精数と受精率が急速に低下するため、雌は連続した配偶を経験した雄との配偶が大きなコストとなることが示された。本研究は、雄が餌や雌をめぐる闘争や探索をする必要のない実験条件下でも、連続した配偶は雄の繁殖成功を制限することを示し、「有限な精子」をめぐる雌雄の対立を引き起こす可能性があることを明らかにした。


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