| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-120 (Poster presentation)
種内托卵は,ある個体が同種の他個体の巣に産卵し,他個体の子育て行動を利用する代替的な繁殖戦術である.種内托卵が見られる昆虫類の一例として,甲虫目モンシデムシ属Nicrophorusが挙げられる.モンシデムシ属は,幼虫の餌となる小動物の死体をめぐって同種内で競争し,競争に勝った雌成虫は死体を利用して幼虫を育てる.一方で,競争に負けた雌成虫の一部は死体の周囲から逃げる前に,少数の卵を産卵し,勝った雌成虫に自身の幼虫を育てさせる.このようなモンシデムシ属の種内托卵に関する研究は,競争の条件などを一定にした室内実験により行われてきた.しかし,実際に野外で種内托卵が生じるのか,どのくらいの頻度で起こるのかについては,詳しく分かっていない.
本研究では日本に広く分布するヨツボシモンシデムシNicrophorus quadripunctatusを対象に,野外における種内托卵の有無を調べた.2018年4月~10月の期間,神奈川県藤沢市日本大学演習林内の18箇所に,小動物の死体に見立てた鶏肉を66個設置した.その結果,繁殖行動していた雌親と幼虫の家族(ブルード)と,雌親と雄親そして幼虫からなる家族が,合計10ブルード得られた.この10ブルード(雌親:合計10頭,雄親:合計4頭,幼虫:合計149頭)を対象に,8遺伝子座のマイクロサテライトマーカーを用いて,雌親と幼虫の親子判定を行った.その結果,6ブルードにおいて,雌親とは異なる遺伝子型を持つ幼虫が合計37頭確認された.各6ブルードの全幼虫の内,雌親とは異なる遺伝子型を持つ幼虫は,約23%~75%を占めていた.
これらの結果より,野外においてヨツボシモンシデムシ雌成虫は非血縁の幼虫を育てていることが明らかになった.この非血縁の幼虫は,種内托卵に由来すると考えられる.