| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-121  (Poster presentation)

ヤリイカの代替繁殖戦術決定における孵化日の影響
Birth date effect on determination of alternative reproductive tactics in the squid Heterololigo bleekeri

*細野将汰(東京大学), 増田義男(宮城県水試), 河村知彦(東京大学), 岩田容子(東京大学)
*Shota HOSONO(The University of Tokyo), Yoshio MASUDA(Miyagi Prefecture), Tomohiko KAWAMURA(The University of Tokyo), Yoko IWATA(The University of Tokyo)

 ヤリイカHeterololigo bleekeriの雄には成熟サイズ二型が存在し、大型雄は雌とペアを形成するコンソート雄、小型雄は卵の一部を受精させるスニーカー雄となる。このような同性内における繁殖行動の多型は“代替繁殖戦術”と呼ばれ、多くの生物で確認されている。形態的特徴より、ヤリイカの繁殖戦術は生活史早期に決定され、生涯変更されないと考えられるが、実際にどのように戦術が決定されているのかは不明である。一般にイカ類の成長は生活史初期の経験水温に強く影響を受けることから、ヤリイカ雄の成熟サイズ二型および繁殖戦術は、孵化日によって異なる経験水温に由来する可能性が考えられる。そこで本研究では、ヤリイカ代替繁殖戦術の決定メカニズムの解明を目的に、平衡石の輪紋解析により孵化日の推定を、微量元素分析により経験水温の推定を行った。
 2020年1〜3月に宮城県沖で漁獲されたコンソート雄58個体、スニーカー雄30個体、未成熟雄43個体について、平衡石に形成される日周輪数から孵化日を推定した。その結果、戦術間で孵化日に有意な違いが見られ、重複はあるもののコンソート雄の方が約40日早生まれであった。また、未成熟雄の中には、同時に漁獲されたスニーカー雄よりも早生まれで体サイズが大きい個体が多数確認された。これらの未成熟雄は、孵化日の影響を受けて生活史初期の時点で成熟時の戦術をコンソート雄に決定したが、未だ成熟に至っていない個体であると考えられた。これらの結果から、ヤリイカ代替繁殖戦術は孵化日の影響を受けて生活史初期に決定していることが推察された。
 次に、平衡石中のSr/Caが経験水温と負の関係を持つことから、微量元素分析により個体の生活史初期の経験水温を比較した。その結果、同時期に孵化した両戦術の個体は、生活史初期に同程度の水温を経験していたことから、生活史初期の経験水温は繁殖戦術の決定に影響していない可能性が示された。


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