| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-122 (Poster presentation)
フジツボ類は動物界における多様な性システムの進化を理解するモデル生物としてダーウィン以来用いられてきた。性配分理論では繁殖集団の大きさと性システムの関係を考察しており、フジツボ類では水深が深くなるほど繁殖集団が小さくなると予想される。このため、深度が深くなるにつれて雌雄同体、雄性異体(矮雄と雌雄同体)、雌雄異体(矮雄と雌)と性システムが変化すると考えられており、複数の先行研究でこのことが支持されている。ミョウガガイ目は450種近くを含むフジツボ類の中で特に大きな目であり、幅広い深度に多く生息している。性システムは雌雄異体、雄性異体、雌雄同体の3つが知られる。矮雄は雌または雌雄同体上のreceptacleという窪みにのみ定着し、卵に授精する。このreceptacleは種ごとに3つのタイプに分けられ、雌または雌雄同体はreceptacleの大きさや形を通して定着矮雄数を制限することができると考えられている。ところが、ミョウガガイ類は特に深海域に多く、従来多くの標本を得ることが困難であった。
本研究では、主に日本近海の10年以上にわたる多数の航海で29種のミョウガガイ目の標本を新たに得て、その塩基配列データを既知の40種に加え、合計69種というミョウガガイ目として最大種数の系統樹を作成した。そして、得られた樹形に各種の繁殖形質をマッピングして祖先形質を推定した。その結果、雌雄異体から雄性異体への進化は、ミョウガガイ目で従来考えられていたより多く最低5回は起こっていたことが推定された。また、生息深度や個体のサイズ、receptacleタイプといった形質も系統の中で何度も進化していた。特に生息深度と性表現の関係では、雄性異体が雌雄異体よりも浅い海域で進化したという、性配分理論の予測を支持する傾向がみられた。採集が困難な深海性フジツボ類において、系統関係と繁殖形質の進化について詳細に調べた例は極めて少なく、本研究はフジツボ類の繁殖戦略を考えるうえで重要な知見である。