| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-127  (Poster presentation)

スギオシロアリにおけるネオテニック分化過程の解明
Elucidation of Neotenic Differentiation Process in  Neotermes sugioi

*中村龍司, 宮國泰史, 照屋俊明, 杉尾幸司(琉球大学)
*Ryuji NAKAMURA, Yasushi MIYAGUNI, Toshiaki TERUYA, Koji SUGIO(Ryukyu Univ.)

 社会性昆虫であるハチやアリ,シロアリなどでは,繁殖は生殖虫が担当し,それ以外のカーストは基本的に不妊である.シロアリの一部の種では,生殖虫の死亡や生殖能力の低下などによりコロニーから生殖カーストが消失した場合,擬職蟻(ワーカーにあたる個体)などから幼形生殖虫(ネオテニック)が出現する.このネオテニックの生産については,同性生殖虫のフェロモンによる制御システムが示されてきた.一方,沖縄県に生息するスギオシロアリでは,オス特異的なネオテニック生産や,非性特異的なネオテニック抑制パターンなど,従来のセオリーには則らない事例が報告されているが,その詳細についての知見は乏しい.本研究では,スギオシロアリにおけるネオテニックの生産について,生殖虫以外に,他のコロニーメンバーの存在がネオテニック分化に影響することを実験的に確かめた.また,糞食行動による栄養交換がネオテニックの出現制御に影響を与えているという過去の報告から,揮発性ではないフェロモン物質の存在が推測されてきたが,詳細には調べられていない.そこで,スギオシロアリの擬職蟻集団を用いて,生殖虫の在否などによって排泄物の成分構成が影響を受けるかについても調査を行った.
 実験の結果,擬職蟻の単独飼育時に比べて,2個体以上で飼育した場合はネオテニック分化率が有意に高いという結果が得られた.また,高速液体クロマトグラフィーによる排泄物の化学成分分析の結果,生殖虫の存在するオス擬職蟻集団でのみ,固有のピークがみられた.本発表では,これらの研究内容の紹介とともに,その結果が,シロアリのネオテニック生産制御機構のセオリーに対してどのような意味を持つのかについて議論する.


日本生態学会