| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-130  (Poster presentation)

ストロンチウム同位体比を用いたサツキマスの出身河川および移動履歴の評価
Evaluating natal origins and migration histories of red-spotted masu salmon using strontium isotope ratios

*井田慎一郎(富山大学), 太田民久(富山大学), 佐藤拓哉(京都大学), 飯塚毅(東京大学), 上田るい(神戸大学), 岸大弼(岐阜県水産研究所)
*Shinichiro IDA(University of Toyama), Tamihisa OHTA(University of Toyama), Takuya SATO(Kyoto University), Takeshi IIZUKA(The University of Tokyo), Rui UEDA(Kobe University), Daisuke KISHI(GRIFA)

生物は成長段階や環境変化に応じて複数の生息地間を移動する。また個体群内に見られる移動パターンの多様性は、個体群の持続性を高める効果がある(Schindler et al.,2010)。したがって対象個体群の生息地利用状況および移動履歴の把握は、生物資源の維持および保全を行う上で必要な基礎データとなる。
魚類の耳石中の化学/同位体組成は、個体が経験した環境情報を保存しており、出生地や移動履歴の推定に用いられてきた。中でもストロンチウム(Sr)同位体比は、集水域の地質組成の違いを反映し河川間で値が変化しやすく、環境水の値が直接耳石に反映されることから、強力なトレーサーとして知られている。本研究では岐阜県長良川のサツキマス個体群を対象に、河川水およびサツキマス耳石のSr同位体比を測定し、本種の出身河川および移動履歴の評価を行った。
まず流域108地点における河川水試料のSr同位体比を測定し、Sr同位体地図(アイソスケープ)を構築した。構築したアイソスケープから、本流域のSr同位体比は複雑な地質組成の影響で、隣接する支流間であっても値が大きく変動することが明らかとなった。次に、孵化年度の異なる遡上サツキマス計69個体 (2019-2020年 捕獲)の耳石を、レーザーアブレーションMC-ICP-MSを用いて、成長軸に沿ってコア-エッジ間を時系列的にSr同位体比の測定を行った。その結果、出生河川と対応するコア付近の同位体比は個体毎に異なる値を示し、コア-エッジ間にわたり個体ごとに異なる同位体比の変動パターンが確認された。
本結果から、長良川のサツキマス個体群は複数の河川を産卵に利用していることが分かった。加えて、一部の個体は淡水生活期に支流間移動を繰り返し、複数の生息地を利用していることが示唆された。本結果は、サツキマス個体群の持続性を高める上で、複数の流域を管理する必要性を示唆している。我々は今後更なる解析を進めることで、有効な資源管理策の確立に貢献出来ると考えている。


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