| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-131 (Poster presentation)
生育場所の水温や生息密度は、両生類の幼生にさまざまな影響を及ぼし、幼生期間や変態時の体長を変化させることが知られている。また、このような成長の変化は、上陸した後の成長・生存率にも関係している。したがって、幼生期は両生類の生活史における重要な局面であり、水場の環境と幼生の成長・変態の関係を把握することは、保全生態学的にも重要な課題となる。本研究では、日本の本州に生息するモリアオガエルZhangixalus arboreusについて、その幼生期における水温と生息密度が及ぼす影響を明らかにすることを目的として、繁殖池における野外観察と飼育実験を行った。野外では、愛知県北東部の山地域にて、3年間幼生を採集し、後肢形成期後期 (Stage 41)の個体について体長を測定した。飼育実験では幼生を低温と高温に分けて飼育し、成長を記録した。その結果、野外の幼生には、面積あたりの産卵数が多いほど小さくなる傾向がみられた。面積あたり産卵数は概ね幼生の密度と比例すると考えられるので、幼生の成長は、密度と負の関係にあることが示唆された。飼育実験では、低温で飼育した幼生は、高温で飼育した幼生と比較して成長が遅かった。しかし、野外の幼生を対象としたGLMMによる解析では、水温と幼生の体長に負の関係がみられた。この結果には、水温による、幼生期間への影響が関係していると思われる。飼育実験では、低温によって幼生期間が延長することが示唆された。低温にさらされた幼生は、幼生期間を延長することで、成長速度の低下を補償し、より高い温度で成長した幼生と同程度か、それ以上の体長に到達していたと考えられる。このようにモリアオガエルでは、同種他個体の産卵や、水温の高低といった生物的・非生物的環境が、幼生の成長と変態に影響をおよぼすことが示唆された。