| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-132 (Poster presentation)
腹足類は,様々な動物の中で最も陸上進出に適した分類群の一つであり,生活史を内陸で完結する完全陸生を古生代以降に10回以上独立に獲得してきた(Kano et al. 2015).一般に,腹足類の初期発生様式は,幼生が海中のプランクトンを食べて成長する浮遊発生型を祖先型とし,そこから浮遊期をもたない直逹発生型が一方向的に派生するとされる(Collin & Moran 2018).成体の移動能力が乏しい腹足類において,直逹発生の獲得は内陸への進出に必須の条件であるが,発生様式がいつ・どのような環境で変化したか,完全陸生に至る過程の詳細は明らかになっていない.
オカミミガイ科は,主に潮下帯から潮間帯,飛沫帯,内陸の森林内に生息する腹足類の一群で,科内で複数回の陸上進出が生じたとされる(Romero et al. 2016).一方,本科貝類の発生様式に関する知見は乏しい.そこで演者らは,邦産種を中心に,卵と原殻形態の観察や,地域集団の遺伝的構造解析に基づく海洋分散能の評価を行い,発生様式の推定を行った.また,分子系統解析を行い,樹上に発生様式と生息環境をマッピングすることで,本科貝類における陸上進出過程の解明を試みた.
その結果,オカミミガイ科の共通祖先はプランクトン食浮遊発生性であることが示唆された.さらに,潮上帯から陸域に生息する種からなるヒラシイノミ属においても,共通祖先がプランクトン食浮遊発生性であること,また同属内で少なくとも2回,直逹発生と完全陸生を獲得したことが明らかとなった.このうち,内陸に生息するヒメヒラシイノミは,浮遊発生性クロヒラシイノミと姉妹種の関係にあることがわかった.これは,潮上帯に生息する動物の陸上進出過程において,直逹発生の獲得が陸生化の鍵となることを示唆する.