| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-133 (Poster presentation)
森林に膨大に存在する樹木の材は、難分解性かつ貧栄養であり、動物にとって利用の困難な資源である。しかし、様々な昆虫が木材を利用している。これら材依存性昆虫は、微生物との共生により材を利用できるようになった可能性があるが、その実態はほとんどが不明である。ハナカミキリ亜科(コウチュウ目カミキリムシ科)の大部分の幼虫は材に依存し、枯死木の内樹皮や材を摂食する。一部の種において、メス成虫の産卵管基部の袋状器官(盲嚢)より酵母が見出されていること、幼虫の消化管に付着する粒状器官(マイセトーム)に酵母が貯蔵されていることから、ハナカミキリと酵母の共生が考えられる。材と内樹皮は栄養価が異なり、餌資源としての利用しやすさが異なる。そのため、幼虫食性の異なる種では、酵母への依存度が違い、マイセトームの有無や発達の程度が異なる可能性がある。また、盲嚢は共生酵母の垂直伝播に関係し、メス成虫の保持する酵母が幼虫のマイセトームに受け継がれる可能性がある。一方、垂直伝播ではなく、幼虫が環境中から酵母を獲得する可能性もある。本研究は、ハナカミキリ幼虫において、食性とマイセトームの有無と発達の関係、酵母の獲得経路を明らかにするため、幼虫を採集、解剖し、マイセトームより酵母を分離した。その結果、貧栄養な材摂食の種は発達したマイセトームを持つ一方で、比較的栄養価の高い内樹皮摂食の種ではマイセトームが未発達または存在しなかった。盲嚢とマイセトームの酵母種は、多くのハナカミキリ種で一致していた。一方、同じ材由来の複数種の幼虫は、異なる酵母を有していた。以上のことから、ハナカミキリ幼虫は、餌資源により酵母への依存度が異なる可能性があること、メス成虫の盲嚢を介して垂直伝播により酵母を獲得することが示唆された。