| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-134  (Poster presentation)

周期ゼミ幼虫におけるトランスクリプトーム解析
Transcriptome analysis in periodical cicada nymphs

*Namiho SAITO(Kyoto Univ.), Satoshi YAMAMOTO(NARO), Satoshi KAKISHIMA(NMNS), Yutaka OKUZAKI(Univ. of Tokyo), Andrew RASMUSSEN(Mount St. Joseph Univ.), Gene KRITSKY(Mount St. Joseph Univ.), John COOLEY(Univ. of Connecticut), Chris SIMON(Univ. of Connecticut), Teiji SOTA(Kyoto Univ.)

北アメリカに生息するMagicicada属の周期ゼミは、長さの決まった幼虫期を経て一斉に羽化・繁殖する。幼虫期は17年の種と13年の種が存在し、それぞれ17年、13年を数える機構によって制御されていると考えられるが、そのしくみはわかっていない。周期ゼミの1コホートの羽化年齢には変異があり、通常より4年早く(または遅く)羽化する個体が少数存在している。このことから、4年をカウントする内因性の時計と幼虫の成長状態に応じて、成虫変態の可否が4年ごとに決定されている可能性がある。また、周期ゼミの終齢(5齢)幼虫は、羽化の前年に眼の色が白から赤に変化するため、眼の色の違いが成虫変態に向けた発育状態の指標になりうる。本研究では、周期ゼミの周期制御機構の解明に向けて、17年ゼミの1種Magicicada cassiniの11、12、15、16年目の秋に採集された幼虫について、年齢、齢数、眼の色、体重を考慮して遺伝子発現を比較した。5齢幼虫において、赤眼個体は16年目の幼虫のほかに12年目の一部の幼虫でも見られ、12年目の幼虫では、赤眼個体の平均体重が白眼個体より重かった。このことは、他の昆虫で知られている成虫変態への臨界体重が存在する可能性を示唆している。赤眼の幼虫は白眼の幼虫とは異なる遺伝子発現パターンを示し、特に神経系の発達に関わる遺伝子が高発現していた。その中には光受容に関わる遺伝子も含まれていたことから、赤眼の幼虫では光受容能力の向上が起こっている可能性があり、翌年の羽化に向けた準備が進んでいると考えられた。しかし、これまでに知られている昆虫の成虫への変態に特異的な遺伝子発現パターンはみられず、越冬休眠により変態過程が中断されている、あるいは休眠からの覚醒後に変態過程が開始する可能性が示唆された。これらの結果を踏まえて、周期ゼミ幼虫における越冬休眠を挟んだ羽化への移行モデルを提案した。


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