| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-136 (Poster presentation)
温度条件は、昆虫の発育や生存、体長、行動に大きな影響を及ぼす。そのため、地球温暖化による平均気温の上昇が絶滅危惧種を含む昆虫に与える影響が懸念されている。例えば、移動分散が可能な種では、分布域の北上や、高標高域への分布シフトが報告されている。生態的、生理的要因により移動分散が限られている種においては、温暖化が適応度の低下を招き、絶滅に至る可能性もある。従って、それぞれの昆虫種に適した温度条件を明らかにすることは、その保全のために重要である。ナカジマツブゲンゴロウLaccophilus nakajimaiは、体長約4mmの小さなゲンゴロウである。また、与那国島の固有種であり、環境省RLにおいて絶滅危惧II類に選定されている希少種でもある。本研究では、温度が本種に与える影響を明らかにするために、幼虫を18℃、22℃、26℃、30℃、34℃の5つの温度条件下で飼育し、発育速度や、生存率、体長と温度の関係を調査した。その結果、発育速度と生存率、体長の全てにおいて温度の影響が見られた。発育速度は幼虫の齢期によって異なるものの、およそ30℃付近で最大であった。発育限界温度も、齢期によって異なるものの、低温閾値は0.9℃~14℃、高温閾値は29.5~37.0℃と推定された。また、生存率は、26℃条件下が最も高く、34℃条件下では成虫まで育たなかった。成虫のサイズは、22℃条件下で最も大きくなり、温度が上がるにつれて矮小化する傾向が確認された。加えて、発育速度と成虫サイズの間には負の相関が確認され、これらのトレードオフの関係が示唆された。これらのことから、温暖化による水温の上昇が、発育期間の短縮による発生消長の変化や、小型化や生存率の低下による適応度の低下をもたらす可能性が示唆された。今後は、自然下における生息場所の温度の年変動や現在の発生消長といった基礎的な知見に加え、矮小化が種間競争や繁殖パフォーマンスに与える影響などを検討したい。