| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-140  (Poster presentation)

東広島市におけるブナ種子食昆虫(ブナヒメシンクイ)の羽化消長と種子食害率
Emergence pattern of beech seed specialists, Pseudopammene fagivora, and seed predation rates in Higashihiroshima

*鮫島裕貴(広島大学), 保坂哲朗(広島大学), 石原正恵(京都大学), 中林雅(広島大学), 山田俊弘(広島大学)
*Yuki SAMESHIMA(Hiroshima Univ.), Tetsuro HOSAKA(Hiroshima Univ.), Masae ISHIHARA(Kyoto Univ.), Miyabi NAKABAYASHI(Hiroshima Univ.), Toshihiro YAMADA(Hiroshima Univ.)

 ブナ(Fagus crenata Blume)の豊凶が進化した要因として捕食者飽食仮説が有力であるが,ブナの種子食者として最も重要なブナヒメシンクイ(Pseudopammene fagivora Komai:ハマキガ科)の基礎生態には未解明な部分が多い.特に成虫の発生消長や密度は,当年のブナ種子食害率に影響する重要な情報であるが,これらの定量的な報告例はない.したがって,本研究では広島県東広島市鷹ノ巣山のブナ林で羽化トラップを設置し,成虫の羽化消長や発生密度を調査した.
 2020年は0.6haプロット内の51個体のブナのうち20個体が開花した豊作年であったが,2021年は2個体のみが開花した凶作年であった.2021年3月25日~9月28日にかけて,2020年に結実したブナ5個体の樹冠下に各2基ずつ,合計10基の土壌から脱出した昆虫を捕獲する羽化トラップを設置し,1~2週間に1度昆虫の回収を行った.また2021年に開花したブナ2個体の樹冠下にシードトラップを2基ずつ設置し,虫害種子の割合を求めた.
 ブナヒメシンクイの成虫個体数は羽化トラップ回収初回の4月1日が最大(4.8頭/㎡)であり,5月以降は皆無であった.ブナの開花は4月16日に見られたため,羽化は少なくとも開花の15日前から開始していた.これは成虫の出現が4月中旬から5月上旬である和泉葛城山よりもかなり早いタイミングであった.また,調査期間を通しての羽化密度は6.4頭/㎡であり,2020年の虫害率から推定した羽化率は5.6%となった.今回は調査開始前に羽化した個体を回収できなかったため,羽化率は過小評価である可能性があるが,低い羽化率は,ブナヒメシンクイは(1)越冬時の死亡率が高い,もしくは(2)休眠延長により翌年以降に羽化する個体がある,ことを示唆する.また,2021年の虫害率は98.5%で,2020年の76.6%よりも高く,飽食仮説が示す捕食者側の餌不足が原因と推測される.以上より,凶作年であってもブナヒメシンクイは開花前から羽化出現し,わずかな種子もほとんどが虫害されることが分かった.


日本生態学会