| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-142 (Poster presentation)
現在多く行なわれている自然再生には節足動物の多様性を回復する効果も期待される。自然再生と節足動物の多様性との関係を考えるにあたり、2つの課題が考えられる。1つが節足動物の種多様性に与える2つの効果である。節足動物の種多様性は植物の種多様性と大型草食動物の食害に大きく影響される。そのため、自然再生による節足動物相の回復について考えるためにはこれら2つの効果を同時に考慮する必要があるが、そうした研究例はほとんどない。
もう1つはその調査方法である。節足動物に関する研究は採集による侵襲的な手法で進められてきた。これは、特に再生初期においては甚大な攪乱をもたらすため、非侵襲的な調査方法が求められる。その1つとして環境DNA(環境中に残存する生物由来のDNA)が注目される。採集せずに生物相情報を得られるため、従来の問題点の解決が期待される。しかし、これは水域で発展した技術であり、陸域の節足動物群集については例が非常に少なく、植物の多様性や食害による効果のような生態学的研究において活用された研究はない。
そこで本研究は、森林再生初期段階において植物の種多様性と食害が節足動物群集に与える効果を環境DNAにより明らかにすることを目的とした。そのために、皆伐した斜面に植物の種多様性と食害を操作した森林再生実験区を作成した。実験区はダケカンバ、オノエヤナギ、トドマツのいずれかを24本植えた単独区と3種を8本ずつ植えた多様区からなり、そこにシカ排除柵による食害あり・なしを施した。各区画で2020年に見つけ採り法により、2020年、2021年に環境DNA法により調査を行なった。
2つの手法による調査の結果、環境DNA法ではより多様な分類群を検出できた。また、環境DNA法でのみ食害環境下における多様性区でβ多様性が増大することを明らかにした。これらの結果について報告し、本研究が示した陸域の群集生態学的研究への環境DNAの適用可能性について議論する。