| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-146  (Poster presentation)

イタドリがアリを多く誘引するには花外蜜腺だけでは不十分?:蜂蜜を塗ると食害は減る
Does extrafloral nectaries work well to increase ant attention in Fallopia japonica? Applying honey can reduce feeding damage of foliage.

*古田理奈, 梶村恒(名古屋大学大学院)
*Rina FURUTA, Hisashi KAJIMURA(Nagoya Univ.)

花以外の器官に発達した蜜腺(花外蜜腺)が、108科745属3941種の植物で確認されている。花外蜜腺の適応的意義は、蜜を滲出することでアリを誘引し、植食性昆虫を排除してもらう生物的防御にある。しかし、植食性昆虫に対するアリの攻撃性の程度は、アリの種類や個体数によって変化することが示唆されている。特に、蜜を好む草食嗜好アリは、複数個体を必要とする。イタドリは、主茎の節や葉柄の基部に花外蜜腺が発達している。演者らが、花外蜜腺を瞬間接着剤で封鎖してアリの誘引を抑制したイタドリ個体(花外蜜腺封鎖個体)を作成し、無処理の対照個体と失葉面積を比較したところ、生物的防御は機能しない場合が多かった。その要因は、対照個体の花外蜜腺に誘引されたアリの個体数不足にあると考えられた。本研究は、この考察の検証を目的として、イタドリに蜂蜜を塗ることでアリの誘引を促進させ(蜂蜜塗布個体)、食害の程度が軽減するかを調査した。同時に、花外蜜腺封鎖個体も再度比較した。その結果、蜂蜜塗布個体は、対照個体や花外蜜腺封鎖個体よりも、失葉面積が有意に減少した。また、今回の調査でも、花外蜜腺封鎖個体と対照個体の失葉面積には、有意差が無い場合が多く、アリが植食性昆虫排除に必ずしも貢献しないことが示された。これにより、花外蜜腺によるアリの誘引数の多寡が、生物的防御の有効性を決定する要因であることが確かめられた。先駆植物であり、高い繁殖力を持つイタドリは、葉には化学的防御物質のタンニンを含み、主茎や葉柄にはアリを誘引する花外蜜腺を備えている。植物は一般に、成長と防御に用いる資源が共通しているため、この二つはトレードオフ関係にある。イタドリの場合は、これに当てはまらず、成長と防御の双方に十分なエネルギーを投資しているものと推察される。しかし、花外蜜腺によるアリ誘引は確実ではないことから、生物的防御の優先度は化学的防御より低いかもしれない。


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