| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-150  (Poster presentation)

訪花昆虫と結果率に与える装飾花の効果~ノリウツギ装飾花の除去実験による検証~
Effect of sterile marginal flowers on the density of flower-visiting insects and fruit set ~Evaluation by removing SMFs in Hydrangea paniculata ~

*福村太一, 藍場将司, 中川弥智子(名古屋大学)
*Taichi FUKUMURA, Shoji AIBA, Michiko NAKAGAWA(Nagoya Univ.)

 アジサイ科などの一部の植物では小さな稔性花の周辺に、雄蕊や雌蕊などの性的機能が退化した、大きな不稔性花(装飾花)をつける。装飾花は花のディスプレイサイズを大きくすることで、送粉者をより誘引し、結果として繁殖成功を高めることが報告されているが、装飾花の効果について調査されている植物はレンプクソウ科やキク科のものが多く、アジサイ科アジサイ属の種については検証の余地が残されている。本研究では装飾花をつけるアジサイ属のノリウツギ(Hydrangea paniculata Siebold)を対象に、装飾花を除去した個体とそのまま残した個体の送粉昆虫の訪花頻度、結果率を比較し、ノリウツギの装飾花が繁殖成功に与える効果について調べることを目的とした。
 名古屋大学大学院生命農学研究科稲武フィールドを調査地とし、2020年と2021年に野外調査を行った。調査地内に生育している花序をつけているノリウツギから個体を選び、全ての装飾花を人工的に除去した(2020年では13個体、2021年では19個体)。また、装飾花除去個体の周囲の個体についても装飾花を除去した。装飾花除去個体ごとに稔性花数と成熟果実数を記録して結果率を計算し、装飾花をそのまま残したコントロール個体(2020年では10個体、2021年では20個体)と比較した。また装飾花による誘引効果を調べるために、装飾花除去個体とコントロール個体に訪れる訪花昆虫を2年間採集し、訪花頻度および種組成を比較した。
 その結果、両年においてノリウツギの結果率と訪花昆虫全体の訪花頻度、および体表花粉の付着から送粉者であると推定された訪花昆虫(ハナカミキリ亜科、コハナバチ科)の訪花頻度、訪花昆虫の種組成に装飾花の有無による差は見られなかった。ノリウツギの装飾花は訪花昆虫の誘引や繁殖成功に寄与しておらず、ノリウツギの送粉者誘引戦略は装飾花といった、視覚的な情報を用いたものではないかもしれないことが示唆された。


日本生態学会