| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-153  (Poster presentation)

シカ食害下の森林における送粉サービスのソース・シンク効果の解明
Source-sink effects of pollination services in deer browsing forest

*吉田拓矢(東京大学), 梅木清(千葉大学), 平尾聡秀(東京大学)
*Takuya YOSHIDA(University of Tokyo), Kiyoshi UMEKI(University of Chiba), Toshihide HIRAO(University of Tokyo)

近年、日本各地の森林においてシカ食害による下層植生の衰退が顕著になっており、それは送粉系にも影響を及ぼしているが、送粉者を介した植物種間の間接相互作用については研究が進んでいない。農地や草地では植物種間の送粉者を介した促進作用が知られており、シカ食害下の森林で植物種間の間接相互作用を明らかにすることは、個体数の少ない植物の保全に重要である。シカ食害下の森林では草本植物が減少するため、木本植物と草本植物種間の送粉者の共有は送粉サービスのソース・シンク効果を生むと考えられる。
シカ食害下における送粉サービスのソース・シンク効果について明らかにするために、シカ食害の影響を強く受けている奥秩父山地の冷温帯落葉広葉樹林にて、ラインセンサス調査と草本植物の設置実験を行った。前者では現地で生育する植物種、後者では設置した草本植物種に訪花したハナバチを採集し、付着花粉のDNAメタバーコーディングから訪花履歴を特定した。ラインセンサス調査では送粉者を介した植物種の共起ネットワークを構築し、ソースとなる植物種を評価した。草本植物の設置実験ではソースとなる植物種からシンクとなる植物種に送粉者が供給されているかを検証した。さらに、ソースになる植物種の形質についても評価した。
ラインセンサス調査から、植物種の共起ネットワークのハブを送粉者のソースと定義した結果、ソースは木本植物であることが示された。また、設置した草本植物に訪花した送粉者はソースとなる植物種を有意に高頻度で訪花しており、木本植物から草本植物への送粉サービスのソース・シンク効果が示された。ソースになる植物種の形質はSLAと、対象地で優占する白い色の花が有意に正に寄与した。本研究によりソース・シンク効果が個体数の少ない草本植物の送粉に貢献している可能性と、ソースとなる植物種の分布を考慮したシカ柵の設置といった、草本植物の保全の必要性が示された。


日本生態学会