| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-154  (Poster presentation)

モチノキ属複数種における果実成長フェノロジーと種子食昆虫の加害パターンの関係
Relationship between patterns of fruiting phenology and pre-dispersal seed predation by insects in several Ilex species.

*西門未帆, 平山貴美子(京府大・院・生命環境)
*Miho NISHIMON, Kimiko HIRAYAMA(Kyoto Prefectural Univ.)

種子食昆虫による種子への加害は,種子生産に大きな影響を与えると考えられている。京都市近郊の二次林においてよく見られるアオハダとソヨゴでは,種子内にニッポンオナガコバチの寄生が多く見られるソヨゴで果実生産の年変動が大きく,その寄生がほぼ見られないアオハダでは果実生産の年変動が小さいことが明らかとなってきている。両種の果実生産の年変動にはこのような寄生の差が影響しているかもしれない。本研究では,同じモチノキ属の中でこのような寄生の差がなぜ起こるのか明らかにすることを目的に,モチノキ属複数種の果実・種子の成長フェノロジーと,種子食昆虫の寄生パターンを調べた。
 アオハダ,ソヨゴ,ウメモドキ,ナナミノキ,モチノキ,タラヨウ,クロガネモチの果実を開花後から月2回採取したところ,種子内におけるハチの卵~幼虫の寄生がソヨゴで6月下旬,ウメモドキ,モチノキで7月下旬,ナナミノキで8月上旬,クロガネモチで9月下旬より認められた。これらの時期は,クロガネモチ以外の樹種で,おおよそ種子の成長が頭打ちとなり,種皮が硬化する時期と一致していた。種子内で見られたハチについてmtDNAのCOI領域の解析を行ったところ,クロガネモチについては未記載種である可能性が示唆されたが,ソヨゴ,ウメモドキ,ナナミノキは同一のニッポンオナガコバチであり,モチノキでは産卵管が長いモチノキタネオナガコバチが寄生していた。これらのハチは,種子の発達に合わせて産卵を行っていると考えられた。一方,本研究ではタラヨウ,アオハダへのハチの寄生は見られず,それらの種皮は厚く硬くなっていた。さらにアオハダでは,他樹種においてハチの寄生が継続して見られる8月後半に果実が成熟し,速やかに消失していた。ニッポンオナガコバチのモチノキ属への寄生の差には,このような果実・種子の発達過程の違いが影響していると考えられた。


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