| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-160 (Poster presentation)
農地を取り囲む自然植生は、ポリネーターに食糧資源や営巣地を提供し、その多様性や個体数を増やすことで、作物の結実に正に影響する。このような正の影響を調べた研究の多くは、自然植生の構造・機能の複雑さを強調してきた。しかし、侵略性が高い種が優占し構造や機能が単純になった自然植生が、ポリネーターを介し作物にどのように影響するのかはほとんど知られていない。本研究は、侵略的種クズが、ポリネーターを介してソバの送粉と結実にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするため、茨城県常陸太田市のソバ畑でビデオカメラによる定点撮影と見つけ捕りによる訪花昆虫相と訪花頻度の調査、ソバの受精率と結実率の調査、人工授粉による受精率と結実率の季節変化の調査を行った。この畑は、北側はクズ群落に、東側はスギ-ヒノキ林に、西側と南側は住宅地に面しており、南北にわたって複数ヶ所で調査を行うことで、クズ群落からの距離がソバのポリネーターや結実にどのように影響をするのかを調べることが可能である。クズまたはソバのみを訪花した昆虫もいたが、鱗翅目、双翅目、膜翅目等の多くの昆虫が両種を訪花した。クズ群落に近接するソバ畑ほど、ポリネーターの多様性と訪花頻度が高かった。しかし、ソバの受精率はクズ群落からの距離に依存しなかった。一方、結実率はクズ群落に近接するソバ畑ほど高かった。花粉制限を解消するために人工授粉を行ったところ、開花期の前半に作られた花は、後半に作られた花に比べて、種子が成熟に至る確率が高いことが分かった。以上の結果は、クズ群落に近接するソバ畑ではポリネーターの多様性と訪花頻度が高く、より多くの花でより早く受精が完了したため、結実率が高くなったことを示唆している。本研究で明らかにしたクズの働きは重要な生態系サービスであり、農地における侵入種管理の指針決定に重要な情報を提供する。