| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-164 (Poster presentation)
局所適応は、“自身の環境で他集団より高い適応度を示す状態:local vs. foreign”と“自身の環境で他の環境より高い適応度を示す状態:home vs. away”という2つの基準から定義される。植食性昆虫では、地理的集団が異なる寄主を利用している場合、寄主利用能力に関する局所適応が生じる可能性がある。本研究では、アザミ類を寄主とするヤマトアザミテントウ(以下、ヤマト)にみられる局所適応について、特にhome vs. awayの基準に則り、各ヤマト集団のアザミ利用能力が地点間の距離とどのような関係にあるのかに焦点をあて、その地理的様相を検討した。
先行研究から、東北地方のヤマト集団では異種および同種のアザミ集団に対し、寄主利用能力に関する様々な程度の局所適応が生じていることがわかっている。本研究では、互いに89~365km離れている地点のそれぞれで、ミネアザミ(以下、ミネ)を寄主とする集団(青森集団)とキタカミアザミ(以下、キタカミ)とナンブアザミ(以下、ナンブ)のいずれかを寄主とする集団(岩手・秋田・山形・福島集団)を対象に、幼虫の成育能力と成虫の摂食選好性を実験条件下で査定した。
幼虫の成育に関しては、各ヤマト集団の羽化率がより離れた地点のアザミ上でより低下するという負の相関が検出された。ただし、ミネ上での羽化率に着目した場合、岩手・秋田・山形集団では一律に低化した一方で、福島集団は青森集団よりは低かったものの上記3集団よりは高い値を示し、地点間の距離との関係は必ずしも明確ではなかった。成虫の摂食選好性に関しては地点間の距離との相関は検出されず、青森集団を含めた全集団の成虫がミネよりもナンブとキタカミを有意に好んだ。
以上の結果は、ヤマトにおける寄主への局所適応の全体的なパターンが地点間の距離と相関していることと、ミネがヤマトにとって特殊な寄主であることを示唆する。