| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-167  (Poster presentation)

屋久島と種子島におけるヤマモモの分布パターンの比較
Comparison of distribution pattern of Myrica rubra in Yakushima island and Tanegashima island

*渡邉彩音(名古屋大学), 半谷吾郎(京都大学), 中川弥智子(名古屋大学), 富田晋介(名古屋大学)
*Ayane WATANABE(Nagoya U.), Goro HANYA(Kyoto U.), Michiko NAKAGAWA(Nagoya U.), Shinsuke TOMITA(Nagoya U.)

ヤマモモ(Myrica rubra)のような大型の果実をもつ樹木にとって、霊長類や大型鳥類は唯一の散布者となりうるため、大型動物の絶滅してしまった「空洞化した森林」では種子散布機能の崩壊が懸念されている。今からおよそ70年前にサルが絶滅した種子島と、種子島の近隣の島で現在もニホンザルが生息する屋久島を対象とした先行研究によって、種子島でのヤマモモの種子散布機能が屋久島と比較して大きく低下していることが示唆されている。本研究では、種子島と屋久島でヤマモモの分布パターンを比較し、種子散布者の喪失がヤマモモに与える影響を評価することを目的とした。
種子島中種子町の照葉樹林およそ10 haと、屋久島町半山地区の照葉樹林およそ27 haを踏査し、調査地内に生育するヤマモモ成木(樹高1.3 m以上)と実生(樹高1.3 m未満)について、位置情報とサイズを記録した。測定データから分布パターンの指標である森下のIδ指数とTPIを算出し、両調査地のヤマモモの分布パターンを解析し、実生密度と個体サイズについても比較を行った。
種子島、屋久島のどちらの調査地においても、ヤマモモの成木および実生のどちらも尾根に集中した分布を示し、両調査地で分布パターンに違いは見られなかった。しかし、種子散布距離など、目に見えないところに変化が起きていることも考えられ、今後時間が経過することで森林構造の変化が顕在化する可能性がある。また、シカ柵外の実生密度は種子島の調査地と比較して屋久島の調査地で有意に小さく、実生密度はシカ柵内でシカ柵外よりも有意に大きかった。屋久島の調査地の高いシカ密度がヤマモモの実生密度に大きく影響していると考えられる。成木も実生も屋久島の調査地の個体のほうが大きく、降水量や土壌の違いによる影響かもしれない。このことから、ヤマモモの分布パターンの決定には、実生の生残・成長における定着制限が散布制限よりも強い影響を与えている可能性が示唆された。


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