| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-168 (Poster presentation)
有性生殖では、性の異なる2個体が交配しなければならず、増殖に寄与するものは雌のみという制約があるため、個体の増殖の面で効率が悪い。一方、無性生殖はすべての個体が単独で増殖できるため、適応度は単純の仮定の下で有性生殖の2倍になる。無性生殖のみを行う生物が広く生育できる要因を探ることは、生物にとっての性という、非効率に見えるシステムの意義を解明することにつながる。ジャヤナギは日本・朝鮮半島・中国に分布する雌雄異株植物であり、日本では雌株のみが生育しているとされている。ジャヤナギはアポミクシスにより種子を生産することが知られているが、枝が折れやすいことから枝からの発根による栄養繁殖も行っていると可能性がある。無性生殖で繁殖する植物は、集団内の遺伝的多様性は低くなることが予想される。しかし日本におけるジャヤナギの繁殖様式や遺伝的多様性の程度は解明されておらず、日本で集団を維持できている要因も明らかではない。
本研究では、ジャヤナギの繁殖様式として栄養繁殖が行われている可能性を探るために挿し木実験により発根力を調べた。また西日本の23カ所から葉を採集し、DNAを抽出した。得られたDNAサンプルからMIG-seq法を用いてSNPsを検出し、各個体間の遺伝的距離を算出した。また、日本におけるジャヤナギの分布拡大の過程を確認するために地理的遺伝構造を調べた。さらに比較の対象として、オオタチヤナギとアカメヤナギについても、同様の調査を行った。その結果、ジャヤナギの集団内及び集団間の遺伝的距離は極めて小さかった。クローン判定の結果からは、近畿地方とその周辺において1つのクローンが広く分布していることが明らかとなった。以上のことから、他のヤナギと比べて遺伝的多様性は著しく低いものの、繁殖速度が有性生殖の2倍という無性生殖の有利な点が、遺伝的多様性が低いという不利な点を補っていると考えられた。