| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-172  (Poster presentation)

多雪山間地の小集水域におけるゼンマイ個体群の分布~生活史段階に着目して
Life-stage dependent pattern in spatial distribution of the Asian Royal Fern, Osmunda japonica, in a mountain catchment of heavy snowfall region

*武藤実緒(横浜国立大学), 近藤博史(横浜国立大学), 木澤遼(横浜国立大学), 中野陽介(只見町ブナセンター), 酒井暁子(横浜国立大学)
*Mio MUTO(Yokohama National University), Hirofumi KONDO(Yokohama National University), Ryo KIZAWA(Yokohama National University), Yosuke NAKANO(Tadami Beech Center), Akiko SAKAI(Yokohama National University)

ゼンマイは多雪山間地で多く採集され、地域の文化や経済における重要な生態系サービスである。しかし過疎化などで利用は縮小し、同時に生息地の情報が失われつつある。ゼンマイの生態を扱った研究は少なく、保全・管理に必要な情報は不足している。本研究では、天然ゼンマイの代表的な産地である福島県只見町において、ゼンマイ個体群の(1)集水域スケールでの広域的な分布パターンと、(2)局所スケールでの実生と成熟個体それぞれの生息環境を調べた。

(1)遠距離からゼンマイの識別が容易となる季節を特定し、集水域内の32haをUAVで空撮した。画像をGIS上で5m区画に分割し、成熟個体1個体のサイズに概ね対応する被度10%を基準にゼンマイの存否を評価して、環境情報をDEM等から得てGLMで分布予測モデルを作成し、変数選択を行った。北東向き・急斜面・1315m四方で評価した凸地・15m四方で評価した凹地・ガリー近傍で出現確率が有意に高いとの結果を得た。先行研究では本種は斜面下部が採集/分布の適地とされているが、この集水域では斜面上部域の局所的湿潤地に分布中心があることがわかった。

(2)実生と成熟個体は異所的に出現した。そこで集水域の谷底部流路沿い(1km)に、実生調査区(15cm方形区×30;計421個体)と成熟個体調査区(2m方形区×20;計97個体)を別途設置した。各調査区で、ゼンマイの個体数、各個体の栄養葉・胞子葉の枚数と面積、調査区内外の環境を計測した。実生は、開空率が低く周囲よりコケ類の被度が高くリター被度が低い場所に集中する傾向があった。実生の定着には乾燥を回避できる環境が重要だと言える。成熟個体は、実生よりも開空率が高く土壌が厚い場所に分布がシフトしつつも、相対的に暗い場所で大型化する傾向があった。今後は追跡調査を継続し、成長過程や個体群動態、およびそれらと環境との関係を明らかすることで、持続可能な資源利用の提言に繋げたい。


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