| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-176 (Poster presentation)
樹木の種子生産量がマスティングにより年変動する場合、既存の実生個体群への新規同齢集団の加入は種子生産量の年変動に伴って異なると考えられるが、密度依存的な死亡がマスティングのパターンと同様に発生し、実生の更新動態に影響するのか明らかではない。本研究では、日本の冷温帯において優占種となりやすくマスティングを行うブナを対象とし、他種と混交するブナ林において若齢実生の更新にマスティングによる種子生産量の年変動と低い同種密度が及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
調査地である岡山県の若杉天然林の林冠層はホオノキ、ブナ、ミズメが優占し、相対胸高断面積合計(以下相対BA)はそれぞれ44.1%、30.9%、12.8%である。ブナの健全種子生産量はシードトラップにより2011年から2021年まで年毎に集計した。また2011年から2021年の毎年8-9月に30m×90mの調査区で1年生以上の全ての実生の生存・死亡を調査した。健全種子生産数と1年生実生加入数の間に有意な相関はなかった。このことから、種子から1年生実生に至るまでの間の死亡率が同齢集団ごとに異なることが考えられる。また、本調査地でのブナの単位面積あたりの種子生産数はブナの相対BAが高い(53.4%〜98.4%)他林分と比較して少なかったが、実生の生存率は高かった。単位面積あたりの実生密度と実生の死亡率には有意な相関はみられなかった。これらのことから、実生の生存・死亡要因には様々な環境条件の影響も考えられるが、他種と混交することでブナの密度が低い場合、1年生以上の実生では密度依存的な死亡が起こりにくく、様々な同齢集団の更新が行われる可能性が示唆された。