| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-177 (Poster presentation)
多雪山地では近年進行している温暖化によって消雪が早まり、そこに生育する落葉樹の稚樹の開葉時期も早まることが予想される。しかしながら、この開葉の早期化によって稚樹が晩霜害に遭いやすくなるかもしれない。環境条件の変化に伴う開葉時期の変化には集団間で変異があることが様々な樹種で知られており、同一樹種の中でも温暖化によってどのような集団で晩霜害を受けやすくなるかが問題となる。本研究では、温暖化に伴う開葉時期の可塑性と晩霜害の危険性の変化、及びこれらの関係を明らかにすることを目的とし、多雪山地の優占種であるブナの稚樹を対象に複数の標高域で植栽実験を行った。このため、青森県八甲田山において標高と晩霜頻度が異なる5産地から種子を採取し、同県内の標高の異なる3地点(標高30~900m)に植栽した後、3年生稚樹の開葉フェノロジーと生死を調査した。調査の結果、低標高の植栽地ほど開芽日が早くなる傾向が認められた。標高に沿った開芽日の可塑性は低標高の産地で大きく、晩霜頻度が高い産地で小さかった。安全余裕度([開芽日]-[消雪後の最終晩霜日])は低標高の植栽地ほど小さく、低標高の植栽地において可塑性の大きな産地ほど小さくなる傾向が認められた。また、調査を行った2021年春には最も標高が低い植栽地でのみ晩霜害が発生した。この晩霜害について見ると、可塑性が最も大きい低標高の産地で晩霜害の被害が大きく、全産地をまとめた場合は開芽日の早い個体ほど晩霜害を受けて生存率が低くなる傾向が認められた。これらの結果は、温暖化に伴う開葉日の変化の程度には集団間変異があり、可塑性の大きな集団ほど温暖化した気候条件下で晩霜害が発生しやすいことを示唆している。以上より、温暖化が進行するとブナ稚樹における晩霜害が増加し、低標高域に分布する開葉日の可塑性の高い集団で晩霜害を受ける危険性が高まると考えられる。