| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-178  (Poster presentation)

高山帯におけるリター分解は火山ガスによるどのような影響を受けるのか?
How is litter decomposition in the alpine zone affected by volcanic gas?

*金子さやか, 酒德昭宏, 和田直也(富山大学)
*Sayaka KANEKO, Akihiro SAKATOKU, Naoya WADA(Univ.Toyama)

物質循環の一翼を担うリター分解過程への理解は、生態系の機能を明らかにする上で極めて重要である。山岳上部の高標高地に位置している高山帯においては、リター分解は一般に低温によって制限され、土壌中には多くの有機炭素が蓄積される。飛騨山脈立山連峰の高山帯では、稜線部や斜面上部にハイマツが優占し、その林床にはよく発達したリター層を観察することができる。一方、弥陀ヶ原火山の噴気ガスに晒される立地においては、近年、ハイマツの針葉が枯れ、地表面が剥き出しになった場所が散見されるようになった。本研究は、日本における広義の高山帯において優占するハイマツ群落を対象に、火山ガスが生態系の機能にどのような影響を与えているのかを、リターの分解能から評価することを目的に実施した。リター分解能については、Keuskamp et al.(2013)によるTBI法を用い、夏季と冬季の二時期において、安定化係数(S)と分解速度定数(k)を算出することで評価した。さらに、野外実験に用いたティーバッグの表面に付着していた土壌より遺伝子を抽出し、次世代シークエンサーを用いて土壌微生物(16S rDNA、18S rDNA)の探索を行った。火山ガスに暴露されハイマツが枯れた影響区では、林冠が健全に維持されているハイマツ対照区に比べ、S値及びk値が夏季と冬季共に低かった。したがって、影響区では易分解性有機物が土壌系から溶出しやすく、かつリターの分解能力も低下していることが明らかになった。さらに、土壌微生物群集は影響区と対照区の間で大きく異なり、影響区では細菌・真核生物どちらの分類群においても多様性が低かった。また、影響区において、細菌ではAcidobacteria門が、真核生物ではOpisthokonta門が、高い割合で存在した。これらの結果から、火山ガスがハイマツ群落におけるリター分解過程に及ぼす影響について考察を行った。


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