| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-181 (Poster presentation)
東アジア沿岸域の丘陵・山岳地では複雑な地形構造が植生を規定し、とりわけ丘陵地では侵食前線を概ねの境界として、地表が安定的な尾根周辺を中心に分布する種群(以降S群)と地表撹乱が卓越する谷周辺に主に生息する種群(同D群)とで植生が明瞭に分化する傾向が知られている。しかしその歴史的な成立過程は不明である。
本研究では房総丘陵で微地形上の分布が既知の主要樹種(Sakai & Ohsawa 1994)について、分子系統樹を作成して地形によって規定される生息地の系統的な保守性について解析した。対象種はS群:16種(14属10科)、D群:9種(8属8科)で、種・属の重複はなく、1科のみ重複する。解析の結果、S/D群のどちらに属すかには系統樹の末端付近で保守的傾向があり、これを反映して全体としては弱い系統シグナルが検出された。また種および上位分類群の地理的分布範囲を調べた結果、属・科レベルにおいてD群はS群よりも東アジアに固有な割合が高かった。
同じ南関東だが山岳地である丹沢山地で行なった先行研究では(Kitagawa et al 2020)、地形ニッチ軸は2種類あり、うち地表の安定性で説明できる優位な軸は、植物史上は比較的新しい地史イベントであるヒマラヤ造山運動に関連した東アジアの地形構造の発達に対応した、派生的なニッチ進化によって生じた軸であると説明している。本研究は地形構造や対象種およびその上位分類群の構成、またニッチの評価方法が異なるが、これと整合的な結果となった。
一方で本研究のD群や先行研究のD群該当種には、北半球温帯域に広域分布する属や科の樹種も多く含まれることから、様々な年代・オーダーにおいて獲得した形質を持つ樹種が会合することで、現在の地形構造に対応した植生配列=ニッチ軸が形成されていると考えられる。