| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-182 (Poster presentation)
標高傾度においては、空間的に比較的短い距離において大きな環境勾配が生じる。同一の種でも高標高域に生息する個体と低標高域に生息する個体の間には様々な形態的・生理的形質に違いがあることが多く、この違いはそれぞれの標高環境へ局所適応の結果であると考えられる。
ハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri)は日本全国に分布しているアブラナ科の多年草である。滋賀県伊吹山に生息しているハクサンハタザオには、標高間で葉や茎の毛の有無などに明確な形態的差異が見られ、局所適応のよい研究材料となっている。これまで、伊吹山のハクサンハタザオの低標高型と高標高型の間で、低温・紫外線といった環境ストレスへの耐性の有意な違いが明らかにされている。また、低温順化処理を行うと、低標高型のストレス耐性が増大し、エコタイプ間の差異が小さくなることが観察されたことから、低標高型ではストレス耐性が可塑的であるのに対し、高標高型ではストレス耐性が恒常的である可能性が示唆されている。一方で、これらの形質の遺伝的背景は未解明である。
我々は伊吹山ハクサンハタザオの低標高型と高標高型を交配させ作製したF2個体群を用いた形質測定とゲノム解析を組み合わせ、標高適応に関わる形質の変異の遺伝的背景を探ることを目指している。その第一段階として、F2個体群の「耐凍性」「強光ストレス耐性」「各ストレス耐性の可塑性」を定量化した。その結果、低温と強光ストレスに対する耐性の高さは連鎖せずF2個体群では分離することが確認された。一方で、ストレス耐性の高さと、その可塑性の有無には一定の規則性が見られた。本公演ではF2個体群において観察された形質の分布を報告し、そこから予想される標高エコタイプ間のストレス耐性の遺伝的背景について考察する。