| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-183  (Poster presentation)

標高傾度上でのハイマツ伸長量の直近20年間の変化:気候変動と種間競争の影響 【B】
Growth rate change in the alpine conifer on Mt. Hakkoda during the last 20years: Focusing on both effects of climate change and competition 【B】

*木澤遼, 近藤博史, 松本三千尋, 酒井暁子(横浜国立大学)
*Ryo KIZAWA, Hirofumi KONDO, Michihiro MATSUMOTO, Akiko SAKAI(Yokohama Nat. Univ.)

寒冷地の生態系は地球温暖化の影響を受けやすい。日本の高山帯を特徴付けるハイマツでは、1990年代以降、シュートの伸長速度が上昇傾向にあることが各地のモニタリング調査から指摘されている。しかし詳細に見ると傾向にはばらつきが大きい。我々はその一因として、山体内の標高位置によって温暖化の影響が異なる可能性:分布下部域では亜高山帯種との競争激化が伸長速度に負の効果、上部域では気候ストレス緩和がより強い正の効果を持つためではないかと考え、検討を行った。

北八甲田山系において、複数の登山ルートに沿ってハイマツの分布下限から上限の山頂付近まで計6ラインを設定し、標高30mおきに、近傍の健全木を対象に主幹の基部直径・直近20年分(2001〜2020)の年伸長量、半径2m範囲の植生状況等を記録した。

全体的な傾向として、各個体内で相対化した年伸長量は、2012年まで(前期)は高く、2013年以降(後期)は低かった。山系内の気象観測点のデータとは、前期は本種で既知の通り前年7月の平均気温と正の相関、しかし後期は前年8,9月の平均気温と負の相関を示した。なお気温自体には前・後期を分ける明瞭な変化はみられない。

前・後期とも、標高と半径2m範囲までのオオシラビソ・チシマザサの存否が伸長量と関連し、それらが存在する場合は、低・高標高域では伸長量は相対的に小さく、中標高域ではむしろ高かった。前期から後期への伸長量の減少率は、それらが不在の場合は標高に依存しないが、存在する場合は、低標高では小さく標高とともに拡大することがわかった。

以上から、八甲田山では約8年前に広範囲でハイマツの伸長量が落ちたこと、その際、予想とは異なり、分布下部ではなく上部域で種間競争の負の影響が強く現れたことが示唆された。加えて斜面方位など他の要因も関係しており、こうした複雑さが変化傾向のばらつきの一因だと推測される。


日本生態学会